更新日: 2022.08.26
公開日:2020.10.26
離婚時の財産分与に税金はかかるの?課税される対象や金額とは

離婚時に決めなければならない項目の一つが財産分与です。
夫婦共同で築いた貯蓄額の大きさや婚姻期間の長さによっては、財産分与でかなりの額を受け取ることもあるでしょう。その受け取りの際に、税金はかかってしまうのでしょうか?
ここでは、離婚時の財産分与で税金がかかるのか、かかるケースや節税対策について、詳しく解説していきます。
1. 離婚時の財産分与では、原則税金はかからない

財産分与によって受け取った財産は、原則として課税されません。
そもそも財産分与とは、婚姻期間中に夫婦が共同で築いた財産を、離婚時に夫婦2人で分け合うことをいいます。財産分与の対象となるものは、預貯金や購入した住宅・マンションといった不動産、退職金などです。
財産分与では、共有財産としてこれまで夫婦二人で築いてきたものを、その夫婦で分け合うべきものとして清算するだけ、つまり、受け取る権利として潜在していたものを実際に受け取るだけなのです。
これまで築いた財産以上の利益を受けるわけではありませんので、財産分与の受け取りの際には税金がかからないのです。
2. 例外で財産分与時に税金がかかるケースがある

離婚時の財産分与では、原則税金はかかりません。しかし、状況によっては例外で税金がかかるケースがあります。
また、財産を分与される側ではなく、財産を分与する側に税金が課されるケースもあるのです。そのため、財産分与の際は、課税されるケースに当たるかどうかも考えた上で、分与方法を考える必要があります。
ここからは、財産分与の際に税金がかかってしまうケースを、財産を分与される側・分与する側に分けてご紹介します。
3. 財産分与をされる側に税金がかかるケース

離婚時に財産分与で受け取る財産は、「元々自分の取り分であったものを受け取っただけ」とされるため、基本的には課税の対象にはなりません。
しかし、婚姻中に夫婦が協力して築いた財産と比較したときに、受け取る財産分与の金額が財産分与としての相当額をはるかに超える場合には、本来の自分の取り分を受け取っただけとはいえなくなるため、課税対象になる場合があります。
例えば、
- 財産分与で受け取る財産が不動産の場合
- 受け取る財産が夫婦のもう一方より極端に多い場合
- 税金を免れるために行った偽装離婚と判断された場合
などがあります。それぞれ詳しく見ていきましょう。
3-1. 財産分与で受け取る財産が不動産の場合
財産分与の名目で不動産を受け取るときには、原則税金はかかりません。
ですが、受け取った後に「登記登録免許税」と「固定資産税」を必ず支払わなくてはなりません。詳しく見ていきましょう。
3-1-1. 登記登録免許税
登録免許税とは、取得した不動産を自分名義に変更するための登記申請の際にかかる税金です。
不動産を取得したら必ず名義変更をしなくてはなりません。なぜなら、不動産登記上の所有者名義を自分に変更をしておかないと、正式に自分のものと認めらないため、元の所有者に勝手に売買されてしまう恐れがあるからです。
不動産の名義変更を怠り、取得する前の所有者に勝手に売られてしまったとしても、売られた相手から取り戻すことはできません。もし財産分与で不動産を受け取る場合は、不動産登記申請を必ず行いましょう。
なお、財産分与の場合の登記登録免許税は、不動産の固定資産税評価額の2%となっています。
不動産を取得した側の権利を守るための登記なので、通常は取得した側が負担します 。もし、その分も相手に負担させたいということであれば、相手の合意を得る必要があります。
3-1-2. 固定資産税・都市計画税
固定資産税とは、所有している土地や住宅に対して課せられる税金で、不動産を取得した翌年以降から毎年必ず支払いが発生します。さらに、その不動産が市街化区画内にある場合は、都市計画税もあわせて発生します。
固定資産税の金額は、固定資産税評価額の1.4%、都市計画税は固定資産税評価額の0.3%となります。
なお、不動産が属する地域によって税率が異なる場合や、税負担が軽減される軽減措置制度が適用される場合があるため、詳しく知りたい場合は税理士などの専門家にお問い合わせください。
3-2. 受け取る財産が夫婦のもう一方より極端に多い場合
離婚時に財産分与で受け取る財産は、「元々自分の取り分であったものを受け取っただけ」とされるため、基本的には課税の対象にはなりません。
しかし、婚姻中に夫婦が協力して築いた財産と実際に受け取る財産分与の金額を比較したときに、受け取る金額が財産分与としての相当額をはるかに上回る場合には、相当額から上回る金額に対して贈与税が課されるおそれがあります。
これは、「財産分与は、本来の自分の取り分を受け取るだけなので非課税」という根拠から外れてしまうためです。
ただ、贈与税には基礎控除が110万円まで認められています。基礎控除とは、1年間に非課税となる金額のことで、贈与税の基礎控除は1年間で受け取る財産が110万円以下なら税金がかからないという仕組みです。
あまり発生しないケースではありますが、不動産を分与されたときに不動産評価額が財産分与相当額を大きく超える場合には、贈与税が課税される場合があります。
夫婦双方の事情によっては、「居住用不動産を財産分与する場合、評価額だけで考えると財産分与の相当額を超えるものとなるかもしれないが、お互いが合意の上で財産分与して、取得した側が引き続き住めるようにしたい」というケースもあるでしょう。
この場合、婚姻期間が20年以上の夫婦なら、配偶者控除という節税方法が考えられます。配偶者控除は、居住用不動産を贈与した場合に2,000万円まで贈与税が免除になる特例制度です。
配偶者控除は、先ほど紹介した贈与税の基礎控除と併用することができるので、合計2,110万円までは税金が免除になることになります。
注意点は、
- 配偶者控除は、離婚届を出す前に手続きをすること
- 贈与税の申告を行う必要があること
です。 配偶者控除は離婚前にしか適用されません。また、贈与税の申告は、贈与税の配偶者控除により税金が全額免除になった場合でも必要なので気をつけましょう。
3-3. 偽装離婚と判断された場合
「明らかに贈与税や相続税を免れることを目的として離婚をしている」と判断された場合、贈与税が課されます。
このようなケースでは、財産分与を受けた金額全てに贈与税が課されます。
4. 財産分与をする側に税金がかかるケース

一般的に、「税金は財産をもらう側が支払うもの」というイメージがありますが、財産分与においては、財産を渡す側にも税金が課せられることがあります。それは譲渡所得税です。
4-1. 譲渡所得税
譲渡所得税とは、譲渡価額から取得費と譲渡費用を足したときにプラスの差額(利益)が出た場合に、その利益にかかる税金です。
譲渡価額や取得費、譲渡費用はどういったものか、またどのようなものがあるのかは以下を参考にしてみてください。
用語 | 意味 | 例 |
---|---|---|
譲渡価額 | 譲渡・売却をする時点での価格 | 土地、建物といった不動産 |
取得費 | 譲渡・売却する財産を取得したときにかかった購入代金などの費用 | 購入時の代金、購入時に不動産会社に支払った仲介手数料、購入時に納めた税金(印紙税、登録免許税、不動産取得税)、司法書士に支払った登記手数料、購入時のエアコンなどの搬入や取付工事の費用、増改築費 など |
譲渡費用 | 譲渡・売却する時にかかった費用 | 売却時に不動産会社に支払った仲介手数料、測量費、売買契約書の印紙代、借家人に支払った立退料、建物を取り壊して土地を売るときの取り壊し費用 など |
(譲渡評価額)-(取得費用+譲渡費用)の差額がゼロ、あるいはマイナスの場合、譲渡所得税は課税されません。例えば、建物については築年数が経過すれば価値が下がることが多いので、譲渡所得が課税される可能性は低いことになります。
不動産や有価証券、その他の資産の場合も、購入した時から価値が下がっていれば、譲渡所得税は課税されません。
そもそも、譲渡所得税は、時間の経過によって価値が変動するものに対して発生する可能性のある税金です。現金の場合は、取得した時と譲渡した時で価値が変動しないため、資産として考えたとしても譲渡所得税が課税されることはほぼないと言えます。
(譲渡評価額)-(取得費用+譲渡費用)の差額がプラスとなり、譲渡所得が生まれた場合には譲渡所得税が課税されますが、分与をする財産が「居住用に供していた土地・建物」の場合、条件を満たせば、
- 特別控除
- 長期譲渡所得の軽減税率
という控除を受けることできます。詳しく見ていきましょう。
4-1-1. 特別控除
親族等に対する譲渡でない場合は特別控除が適用され、3,000万円までの譲渡所得には課税されません。
ただし、離婚をした後に財産分与をする必要があります。この控除が適用されれば、購入時と財産分与時の評価額が大きく離れていない限り、譲渡所得税がゼロになることがほとんどです。
4-1-2. 長期譲渡所得の軽減税率
分与する財産の所有期間が5年、または10年を超えていれば、税率が軽減されることがあります。
譲渡所得税は資産の所有期間が5年を超えるかどうかで、長期譲渡所得、短期譲渡所得に分けて税額が産出されます。このうち、
- 所有期間が5年を超えると、長期譲渡所得の軽減税率
- 所有期間が10年を超えると、10年超所有軽減税率
の特例が適用されることになります。
この軽減税率も3,000万円特別控除と同じく、夫婦や親子の間での譲渡は認められていないので、離婚成立後に譲渡を行う必要がある点に注意が必要です。
ちなみに、長期譲渡所得の軽減税率の特例は、3,000万円特別控除と併用可能となっています。
5. 税金がかからないようにする方法とは?

ここでは、財産分与をする際に税金が課税されないようにするために注意したいポイントや、もし税金が課税されてもなるべく少ない負担で済むような控除制度や活用する控除制度の検討の仕方をご紹介します。
5-1. なるべく現金や預貯金で行う
不動産や有価証券などを財産分与する際は、贈与税や登記登録免許税、固定資産税、譲渡所得税がかかってしまう場合があります。
そのため、財産分与はなるべく現金で行うことをおすすめします。現金で財産分与を行う場合には、手続きの際にかかる税金もありませんし、財産分与後にかかるランニングコストもありません。
なお、前述の通り、財産分与は夫婦の共有財産を平等に分配することをいいます。税金が課税されるケースは「財産分与の相当額からはるかに多い場合」のみです。そのため、現金で財産分与をする際も、妥当な金額の範囲に収めるようにしましょう。
5-2. 金額の相当性を法的に明らかにする
夫婦間に何らかの事情があり、お互いが同意の上で決めた財産分与の割合だったとしても、なぜそのような分与割合になったのかを明確に説明することができないと、贈与税が発生する恐れがあります。
そのため、財産分与時に課税されないためには、財産分与であることだけを明確にするだけでなく、その相当性を法的に説明できるようにしておくことが必要です。
具体的には、
- 夫婦間の事情や離婚の経緯を考慮した財産分与の割合を、弁護士に相談する
- 決まった財産分与の内容や経緯を書面に残し、公正証書化する
などがあります。
5-3. 活用する控除制度を状況に応じて見極める
財産分与の際に税金が課税された際に、財産分与をする側・される側が受けられる特例制度をまとめました。
制度名 | 対象 | 内容 | 条件 |
---|---|---|---|
配偶者控除 | 財産分与をされる側 | 居住用不動産を贈与した場合、 2,000万円まで贈与税が免除になる | ・婚姻してから20年以上経っている ・離婚届を出す前に手続きが必要 ・贈与税の申告が必要 |
基礎控除 | 財産分与をされる側 | 1年間で受け取る財産が110万円以下の場合、贈与税が免除になる | – |
特別控除 | 財産分与をする側 | 3,000万円までの譲渡所得であれば譲渡所得税が免除になる | ・離婚届を出した後に手続きが必要 ・確定申告が必要 |
所得軽減税率の特例 | 財産分与をする側 | 譲渡所得税の税率が軽減される | ・分与する財産を所有してから5年、または10年以上経っている ・離婚届を出した後に手続きが必要 ・確定申告が必要 |
実際に課税されない、あるいは財産分与の方法を見直すほどの税額にならないケースもありますが、離婚届の提出のタイミングによって最終的な負担額が異なる場合もあります。
財産分与のタイミングを検討する際の一例としては、
- 分与する財産の現在の価値・価格を調べる
- 購入時より価値が下がっている・変わらない場合は、財産分与をする側に税金はかからないため、財産分与の手続きを離婚後に行い、財産分与をされる側が配偶者控除を活用する
- 購入時より価値が上がっている場合は、財産分与の手続きを離婚前に行い、財産分与をする人が譲渡所得税の特別控除や所得軽減税率の特例を活用する
というような流れが考えられます。
しかし、財産分与をする際に別途考慮したい事項がある場合や、夫婦が持つ共有財産の状況によっては、適した財産分与のタイミングは変わってきます。
具体的に検討する際には税理士や不動産鑑定士に相談をした上で、手続きを進めるようにしましょう。
(まとめ)課税対象になる財産を把握し、財産分与の手続きをスムーズに

現金だけではなく不動産、有価証券など対象が多岐に渡り、そのうえ税金の問題も絡んでくる財産分与。離婚後のトラブルを避けるためには、財産分与とそれに関わる税金の知識が欠かせません。
税金も含めた注意点をあらかじめクリアにしておくことで、夫婦の話し合いもよりスムーズに行うことができるでしょう。
また、実際に財産分与をされる・する場合、何が課税対象でどのくらいの税金がかかるのかを知りたい場合は、税理士に相談してみるのも方法の一つです。
~ この記事の監修 ~

わたしのみらい法律事務所
弁護士 渡邊 未来子
弁護士登録後に保育士資格を取得。養育費保証制度の相談会やセミナー、子ども食堂支援等を通じて、ひとり親家庭の支援活動を行っている。
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