更新日: 2022.12.29
公開日:2022.12.29
親権ってどのように決まる?子どものために知っておきたい基礎知識

未成年の子どもがいる夫婦が離婚するときに、どちらが子どもを引き取るか、親権に関する問題を避けて通ることはできません。
夫婦がお互いに子どもを引き取りたいがために親権争いに発展し、なかなか離婚が成立しないケースも少なくありません。
親権はどのような権利なのか、またどのように親権者を決めるべきなのかといった基本的な知識や、決めるときに重要視される要素やよくある疑問ついて解説します。
~ この記事の監修 ~

行政書士鷹取法務事務所
行政書士 鷹取 雄一
平成16年の開業当初から現在に至るまで、予防法務の分野に注力し、離婚協議書や結婚契約書の作成を得意としている。
1. 親権とは

親権とは、
- 子どもを監護養育する
- 子どもの財産を管理する
- 子どもの代理人として法律行為をする
これらが認められた権利です。なお、親権は、子どもの利益(幸せ)を最優先に考え行使するべきとされており、子どもが成年年齢(18歳)に達するまで持つことができます。
婚姻期間中は、両親二人が子どもの親権を持つ「共同親権」となります。
しかし、現在の日本において夫婦が離婚をする場合、どちらかの親が単独でしか親権を持つことができない「単独親権」となります。
そのため、離婚の際には夫婦どちらが親権を持つか、子どもの親権者を決める必要があるのです。
2. 親権の種類

親権は、主に財産管理権と身上監護権の2つに分けられます。
親権を単に「子どもと一緒に暮らす権利」と考えている方も多いようですが、他にも様々な権利や義務があります。ここでは、それぞれの権利について確認していきます。
2-1. 財産管理権
財産管理権とは、子どもの財産を管理し、その財産に関わる法律行為を行う権利です。
子どもの財産とは、
- 子どもの所有している現金や物
- 子ども名義の預金
- その他子どもの資産全般
を指します。
親権者はこれらの権利を行使して子どもを保護し、子どもの財産を守る義務があります。
以下は、財産管理権に基づいた親が果たすべき義務の一例です。
- 子どもが祖父母や親戚からもらったお年玉を貯蓄する
- 子どもの貯金やこども名義のもの管理する
- 子どもがクレジットカードを作る際に、同意をする
- 子どもが一人暮らしのために賃貸借契約を結ぶ際に、同意をする
2-2. 身上監護権(監護権)
身上監護権とは、子どもの心身の成長を図るため、子どもの身の回りの世話や教育をする権利です。身上監護権を略して監護権ということもあります。
身上監護権には、以下の4つの権利が含まれます。
身上監護権に含まれる権利 | 内容 |
---|---|
居住権 | 子どもの居所(生活するところ)を定めること |
懲戒権 | 子どものしつけをすること |
職業許可権 | 子どもが職業を営むことを許可すること |
身分行為の代理権 | 婚姻の成立や養子縁組などいった子どもの身分行為を代理すること |
財産管理権と同様に、この権利に基づき子どもを保護し、子どもの成長を助けるという義務の側面もあります。
以下は、身上監護権に基づいた親が果たすべき義務の一例です。
- 子どもに衣食住を提供する
- 子どもを健全に育てる
- 子どもを危険から守る
- 子どもに教育、必要に応じてしつけをする
- 子どもに適切な医療を提供する
3. 親権者の決め方

親権者は、基本的に夫婦間の話し合いでお互いの合意の下決めます。
親権者を決めるための基準や条件は、法律上定められていません。そのため、話し合いで親権者を自由に決めることができるのです。
ですが、当人同士の話し合いだけで折り合いがつかず、なかなか親権者が決まらないケースもあるでしょう。その場合、調停や裁判によって親権者を決めることになります。
ここでは、親権が決まるまでの流れを「協議」「調停」「裁判」の状況別にご説明します。
3-1. 協議
言葉のとおり、どちらが親権を持つかを夫婦で相談し、話し合いで親権者決めます。どちらが親権を持つか話し合う際には、子どもの利益を第一に考え、
- これまで子どもの監護養育の実績はあるか
- 子どもを養育するための環境は整っているか
- 子どもを育てていくための経済力はあるか
- 子どもの意志
を考慮しながら進めることが求められます。
なお、離婚届には親権者を記入する欄があり、親権者が決定していなければ離婚届は受理されません。
親権者を決める話し合いが平行線になってしまったため、子どもを連れ去り別居を強行してしまうケースもあるようです。
しかし、これは刑法の「未成年者略取罪」に該当する可能性があり、違法となることがあります 。親権に関して、お互いに納得のいく決定をした上で別居を始めるようにしましょう。
3-2. 調停
協議で親権者が決まらなかった場合、家庭裁判所に調停を申し立てて親権者を決めることになります。
調停では、裁判官や調停委員、家事調査官といった第三者をはさんで、間接的に夫婦間で話し合いを行い、親権を決めます。調停における話し合いの場では、原則夫婦は同席しません。
2名の調停委員が別室にいる夫婦の意見を交互に聞いて、言い分を調整し、親権の決定を図ります。話し合いにより解決を図るという点では、協議離婚と共通していますね。
ちなみに、調停委員とは、裁判所が任命する非常勤の裁判所職員のことです。弁護士、司法書士、その他専門職から選考され、年齢は原則40歳以上~70歳未満とされています。
3-3. 裁判
家庭裁判所の調停でも折り合いがつかず、不成立に終わってしまうと、最終手段として裁判を申し立てることになります。
裁判で親権を決める際には「子どもの福祉に適う方が親権者に適切」、つまり「子どもがより幸せで心身ともに健やかに成長できる方が、親権者として相応しい」という観点から総合的に評価を行い、親権者を決めることになります。
具体的には、家庭裁判所調査官によってこれまでの子育ての実績や経済状況などを調査し、その調査結果や裁判所に認定された事実を元に、家庭裁判所の裁判官が親権者を決定します。
裁判に向けた準備や裁判自体をスムーズに進めるためにも、早めに弁護士に相談してみるのが良いでしょう。
4. 親権者を決めるときに重要視される7つの要素

親権を得るために、子どもに対して深い愛情を持っていることが重要であるのは言うまでもありません。
ここでは、話し合いや裁判所で親権を決める際に、子どもへの愛情以外にされる判断基準や考慮すべき事項を7つご紹介します。
4-1. 母性優先の原則
母性優先の原則とは、「子どもが乳幼児の場合、母親の細やかな愛情が不可欠」とする考えです。そのため、特段の事情がない限り子どもの年齢が低い(0~5歳ごろ)のときには母性優先の原則が重視されます。
とは言うものの、父親が親権を得られるケースもあります。
母親が子どもを監護できる健康状態でない・監護に適した環境に居ない場合や、婚姻中には主に父親が子どもの看護を行っていた場合には、監護の継続性(後述します)の観点から父親が親権を獲得できる可能性があるのです。
4-2. 現状維持の優先の原則(監護の継続性)
現状維持の優先の原則とは、子どもの現在の生活環境が大きく変化することを回避し、できるだけ現状を維持することを尊重する考え方です。
たしかに幼い子どもにとって、取り巻く環境がガラッと変わってしまうとかなり負担になりますよね。子どものためにも、現在の監護状況とそれを継続させることが優先されるため、かなり重要な判断基準です。
また、これまでの監護実績も重要になります。
これまで母親が子どもの監護を担ってきたケースが多くみられるため、母親が親権を取るケースが多くみられるのですが、父親が子どもの看護を担ってきた場合には、父親が親権を取れるケースも大いにあるのです。
4-3. 子どもの意思の尊重
子どもが15歳以上の場合、裁判所が親権者を決める際には子どもの意思を聴取することが法律上定められています。そのため、裁判官による聴取や家事調査官の調査により子どもの意思確認を行うことがあります。
15歳未満の場合には、子どもの意思を聴取する義務はありませんが、実際には子どもが10歳になったあたりから意思を尊重することが多いようです。
4-4. 兄弟不分離の原則
兄弟不分離の原則とは、一緒に暮らしている兄弟姉妹は分かたれるべきではないという考えです。
今までずっと寝食を共にしてきた兄弟姉妹と突然離れ離れになってしまったら、子どもはショックを受けますよね。当然ながら、裁判所は子どもの幸せや生活の安定性を何より優先します。
そのため、子どもが二人以上いる場合でも、各子どもの親権を全て他方の親が持つケースが一般的です。
4-5. 面会交流に対する考え方
親権者を決める際に「フレンドリーペアレントルール」も考慮すべき基準とされています。
フレンドリーペアレントルールとは、離婚後であっても子どもの親として、他方の親と良好な関係を継続させることがより親権者として相応しい、とする考え方です。
そのため、子どもと親権を持たない親との面会交流に協力的であることや、前向きな姿勢を持っているほうが良いとされる考えもあります。
4-6. 子どもを育てるための環境は整っているか
これらが親権を持つ人には、子どもを育てるための環境として、
- 親権者に子どもを監護養育できる経済力はあるか
- 親権者は子どもを監護養育できる健康状態にあるか
- 親権者に子どもと一緒に暮らすための居住地はあるか
これらが整っていることが求められます。
離婚後は、親権者ひとりの収入で子どもを育てていかなければなりません。
それに、保育園や幼稚園の送り迎えや家事、育児など日々の子育てはもちろん、休みの日は子どもと遊びに出かけたり、子どもの緊急時にすぐに駆け付けられるような体力や体制が整っている必要があります。
また、当たり前のことですが、親権者と子どもが共に暮らしていくためには、住む場所が必要になります。現在の住居から出ていく場合は、子どもも安心して住めるような物件を新たに探さなければなりませんし、現在の住居に住み続けるなら、その環境を維持できるかが問われるでしょう。
住居はただ住めるだけでなく、安全に十分に配慮されているか、衛生的であるかも非常に重要です。
4-7. 監護補助者がいるか
親権者が、仕事や急病などいった事情で看護・養育ができない場合に、親権者以外に子育てを手伝ってくれる人(監護補助者)が身近にいるかどうかも重視すべきです。
近所に親権者の両親や親族、頼れる友人がいる場合には、いざというときに子どもを任せることができるので安心です。
5. 親権の変更・停止・喪失が認められるケース

子どもの幸せや子どもが心身ともに安定した生活を送れるようにすることを優先する観点から、親権はむやみに変更すべきではないとされています。
そもそも、親権者は子どもの健やかな成長と幸せのために、責任をもって子どもの面倒を見る義務があります。ですが、この義務に背く場合や、やむを得ない事情がある場合には、親権者の変更を認められるケースがあります。
具体的には、
- 親権者が病気になり子どもを育てられる状況ではなくなった
- 親権者の経済状況が悪化し、監護補助者もいない
- 再婚相手からのDVや虐待など、暴力を受けていて命にかかわる
など、子どもの幸せを第一に考えたときに、親権者としてこのまま一緒に生活を送ることが難しくなった場合に変更が認められる可能性が高いのです。
しかし、一度決めた親権者は夫婦の話し合いだけでは変更できません。
話し合いだけで親権者の変更が認められてしまうと、頻繁に親権者を変えることが可能になってしまいます。その場合、生活環境も頻繁に変化することにより、子どもの心身にも悪影響を及ぼしかねません。
そのため、親権者の変更は合理的な理由があるときにのみ認められ、簡単に変更することはできないのです。
なお、親権者の変更を希望するときには、家庭裁判所に親権者変更調停の申立てを行うことになります。親権者変更調停は、離婚のときと同じく「どちらが親権者になる方が子どもの福祉に適うのか」という観点から判断されることになります。
また、
- 親権者なのに子どもの面倒を見ない(育児放棄)
- 子どもに暴力をふるう(虐待)
などといった子どもの利益を害する場合、親権者としての義務に反していることになります。
このような状況で、関係者から家庭裁判所に申立てがあった場合は、親権停止あるいは親権喪失となることもあります。
6. よくある質問

ここでは、親権に関してよくある質問をご紹介します。
6-1. 専業主婦・無職でも親権を得ることはできる?
結論、専業主婦や無職の場合でも親権を取れるケースもあります。
親権を決める際に特に重要なのは、
- 今まで子どもの監護・養育実績があるか
- 子どもを育てていく環境が整っているか
です。
このような実績があれば、親権を得られる可能性は十分にあるでしょう。
ただ、やはりネックとなるのは収入面です。離婚後に経済的に困らないよう、就職先を探したり収入源を確保しておく必要はあります。
専業主婦だと親権を決めるときに不利になるのでは?と不安に思う方は、以下の記事を参考にしてみてください。
(関連記事)子連れで離婚したい専業主婦が準備すべきこと!養育費をもらうためには?
6-2. 父親が親権を得ることはできる?
結論、父親も親権を得ることができる可能性はあります。
前述の通り、婚姻中に子どもの監護・養育を父親が主に行っていた場合、監護の継続性の観点から親権を父親が得るケースもあります。
また、母親が子どもの監護・養育に適さない場合や子どもの福祉に反する場合にも、父親に親権が認められるでしょう。
6-3. 離婚原因が自分にある場合でも親権を得ることはできる?
離婚原因が、浮気や不倫などといった夫婦間で起こったもので、子どもの健やかな成長にも影響がないものであれば、親権を決めるときにも影響はしないと考えられます。
そのため、離婚原因が自分にあった場合でも、親権を獲得できるケースがあります。
しかし、離婚原因が、
- 子どもにも暴力をふるっていた
- 育児放棄(ネグレクト)をしていた
などと、子どもの福祉にも影響を及ぼす場合は、親権を得ることは難しいと言えます。親権が得られるのか不安な場合は、早めに弁護士に相談しましょう。
6-4. 離婚後も両親二人で親権を持つことはできる?
離婚後は、父親と母親のどちらか一方が親権を持つ「単独親権」になります。そのため、離婚後に両親二人で親権を持つことはできません。
ですが、親権は、主に財産管理権と身上監護権(監護権)の二つに分けられるため、親権から監護権を切り離し、それぞれを父親と母親で分けて持つことができます。決して多くはありませんが、親権者が父親、監護権を持つ親(監護権者)が母親というケースもあるようです。
また、親権と監護権を分けて持つ場合、親権者が財産管理権を有することになります。そのため、親権者が子どもの法定代理人として法律行為を行うことができます。
一方、監護権者は、子どもの代理人として法律行為を行うことができないので、注意しましょう。
親権をめぐって争いに発展してしまい、収束の糸口が見えなくなってしまう前に、このような解決方法を試みるのも一つの方法です。
6-5. 親権が獲得できなければ離婚後に子どもに会えなくなる?
たとえ親権が獲得できなくても、子どもに会えなくなることはありません。
親権を持たない側の親には、面会交流権が発生します。面会交流権とは、離れて暮らす親と子どもが直接会ったり電話をしたりなどと、親子の交流をすることが認められている権利です。
この権利は、親権を持たない親だけの権利でなく、子どもの権利でもあります。 そのため、親権を持たない親と子どもが共に面会交流を希望しているのであれば、実施するべきでしょう。
離婚後に子どもと定期的に会えるよう、面会交流の方法や実施ペースなど、協議時に取り決めておくことをおすすめします。
(まとめ)子どもの幸せが最優先。納得のいく選択を

親権者を決めるときには、子どもの安全や安定した生活、幸せを何より優先しなくてはならないことがポイントです。
また、もし親権を得られなかったとしても、親子の縁が切れることはありません。養育費を支払う義務はありますし、面会交流を求める権利もあります。
養育費や面会交流に関する内容は、後々のトラブルを回避するためにも、離婚協議書や公正証書を作成し、きちんと取り決めをしておきましょう。
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