更新日: 2022.09.28
公開日:2022.09.02
<前半>ADR調停で円満離婚まで最短1ヵ月!ADR制度やメリットを徹底解説

日本における離婚では協議離婚が9割を占めていますが、夫婦間で協議がうまく進まない場合は、次のステップとして「離婚調停」を申し立てるのが一般的です。
しかし、調停を申し立てるにも手続きに手間がかかりますし、拘束時間が長いため、体力・精神的にも負担がかかります。家庭裁判所の混雑具合によっては、調停の開始までなんと3ヵ月(!)も待たなければならないこともあるようです。
なるべく負担がかからずに早期解決ができればいいのに・・・とお悩みになられている人も多いはず。そんな方々へご紹介したいのが、「ADR(裁判外紛争解決手続)」という制度です。
あまり聞き馴染みのない制度ですが、オンラインで調停ができたり土日も利用できるなど、かなり利便性が高く、相談者の事情に応じて柔軟に対応することができます。
今回は、このADRについて「家族のためのADRセンター」のセンター長をされている小泉道子さんに詳しいお話をお伺いしました。
前半では、ADR制度や利用するメリット、ADRが向いている人についてお聞きしています。※この記事に記載されている“ADR”とは、「民間のADR機関で行う調停」のことを指します。
1. そもそもADRってなに?

1-1. ADRとは?法務大臣の認証を受けているって本当?
―― 早速で大変恐縮なのですが、ADRとはどういった制度なのでしょうか?ADRをご存じでない方も多くいらっしゃるかと思うので、ご説明いただければと思います。
(家族のためのADRセンター小泉さん※以下、小泉さん)
ADRは、日本語で言うと「裁判外紛争手続き」といいます。言葉の通り、裁判ではない紛争解決の手段をADRといいます。
「裁判外紛争解決手続(ADR)」とは、裁判によることもなく、法的なトラブルを解決する方法、手段など一般を総称する言葉です。例えば、仲裁、調停、あっせんなど、様々なものがあります。
裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律では、「訴訟手続によらずに民事上の紛争の解決をしようとする当事者のため、公正な第三者が関与して、その解決を図る手続」というものとしています。
※英語では、「Alternative Dispute Resolution」(「裁判に代替する紛争解決手段」)といい、我が国でも、頭文字をとって「ADR(エー・ディー・アール)」と呼ばれることがあります。
―「裁判外紛争解決手続の認証制度(かいけつサポート)」より引用
(小泉さん)
なので、家庭裁判所に申し立てて行う離婚調停も、裁判ではない解決方法になるため、広い意味ではADRになります。ですが、皆さんが一般的に認識しているADR、法務省が管轄しているADRは「ADR事業者が行う民間調停(※以下、ADR)」を指します。
ADRとは、その分野に特化した専門家や有識者が調停人となり、相談者たちの言い分を仲介・調整し、問題の解決を図る制度です。
通常の調停では家庭裁判所に申し立てを行いますが、ADRは、専門家や有識者が所属している民間のADR機関(以下、ADR機関)に申し込みをするだけで行うことができます。そのため、家庭裁判所への申し立ては不要です。
―― 民間の事業者となると、本当に信頼を置けるのかと不安になる方もいるかと思います。ですが、法務大臣の認証を受けているADR機関もあると聞きました。そもそも、離婚におけるADRは、いつどのようにして生まれたのでしょうか?
(小泉さん)
そもそも、ADRという制度自体は戦前からありました。当時から、法律が違う国同士の紛争解決などに活用されていたのです。ですが、認知度が低くほとんど活用されていませんでした。
そこで、2004年にADR法(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律)が制定されました。この法律により、初めて「法務大臣の認証制度」ができたのです。
この法務大臣の認証制度により、認証を受けたADR機関が行った業務に対して時効が中断される、などといった法的効果が付与され、国民に対する利便性が高められました。その上、認証の際のみではなく、毎年法務省への事業報告の義務がありますので、認証を受けたADR機関の権威性や信頼度はかなり高まりました。
また、このADR法には「和解成立に向けての調整を民間事業者がする手続きであるADRは、紛争解決において裁判と並ぶ非常に有効的な手段であることを、ちゃんと国民に知ってもらおう」というような項目も盛り込まれています。
そのため、ADRをより多くの方に知ってもらうための周知・広報活動が活発に行われ始めました。ですので、このADR法の成立によりADRが認知され始めた、というような流れになります。
ちなみに、家庭裁判所での調停制度は戦後に初めてできました。裁判所が主体となる離婚調停も、裁判ではない解決方法になるため、広義でいうとこれが「離婚におけるADR」の誕生になりますね。
1-2. ADRの調停人ってどんな人?
―― 実際にADRをするときの調停人や仲介人にはどのような方がいるのでしょうか?なるためには資格はいるのですか?
(小泉さん)
ADRにおける調停人や仲介人は、紛争を解決へ導くことができる資格を持つ方や、そのような実務経験がある方がほとんどです。法務大臣の認証を受けるときにも、その面は非常に重視されます。
当センターであれば、
- 弁護士資格を持つ者
- 家庭裁判所調査官の経験が5年以上あるもの
- 家事調停委員で、ある一定の年数や案件数の経験があるもの
この3つのうちいずれかの資格を有するものと定めています。
大体どこの団体にも弁護士はいらっしゃいますね。弁護士資格に加えて、その領域に特化した専門知識がある方が調停人として認められることが多いように感じます。
―― ひとつのADR案件に対して、何人の調停人が参加するのでしょうか?
(小泉さん)
おそらく1,2名です。当センターの場合は、ほぼ1名で行います。ADR機関によっては、家庭裁判所みたいに2名配置しているところもあります。
相談者の状況や悩み事、争点によって、解決に適している調停人を決め、担当とするような流れです。
2. 「家族のためのADRセンター」ってどんな団体?

―― 小泉さんは「家族のためのADRセンター」に所属されていると伺っております。「家族のためのADRセンター」とはどのようなADR機関なのか、また小泉さんは普段どのようなお仕事をされているのかを教えてください。
(小泉さん)
はい。「家族のためのADRセンター」は、夫婦問題の解決に特化したADR機関で、私がセンター長を務めています。
業務内容としては、離婚に関するADRをメインで行っておりますが、その他にもADRが終わった後の公正証書作成代理業務や、ADRを行う前段階でのカウンセリング業務も行っております。
「家族のためのADRセンター」は、先ほどご紹介した法務大臣の認証を受けているADR機関となっております。
ちなみに、「家族のためのADRセンター」は、「一般社団法人家族のためのADR推進協会」という社団の中のひとつの組織です。この社団では、他団体のADR機関の立ち上げ支援を行ったり、自治体の職員に向けてADRに関する講習、自治体からの委託を受け、市民や区民へ向けてADRや離婚に関する講座を行ったりしています。
―― そのような組織関係だったのですね!ADRを行う前のカウンセリングとは、例えばどのようなご相談があるのでしょうか?
(小泉さん)
よくご相談いただくのは、「離婚予定だがADRをしたほうがいいか?」といった、自身の状況にあった解決方法を知りたい、というものですね。状況によってはADRではなく家庭裁判者での調停、または裁判をおすすめすることもあります。
その他には「離婚するかどうか決まっていないけど、とりあえず相談しておきたい」と離婚を検討している段階の方からのご相談もありますね。
―― 小泉さんは、家族のためのADRセンターのセンター長をされるまでは、どのようなお仕事をされてきたのですか?
(小泉さん)
私自身、もともと家庭裁判所で家庭裁判所調査官という仕事をしていました。
家庭裁判所の調停や裁判を利用して離婚する方は全離婚件数の10分の1と言いますけど、みなさん紛争性がかなり高まった状態でいらっしゃるんですよね。そのため、「お子さんの福祉(幸せ)のためには」という働きかけをしても、夫婦間の感情が悪化しすぎて、なかなかお子さんに目を向ける余裕がなかったりして・・・。
やりがいがあってとてもいい仕事だったのですが、紛争性が高まる手前の段階で何かサポートするような仕組みがあれば、円満に解決できたご夫婦も多いのでは?と思っていたところ、ADR制度があるじゃないか!と気付いたのです。
ADR自体は前々から知っていたのですが、当時は利用しやすい環境が整っていなかったり、そもそも認知度がなかったりと課題だらけでした。こういう制度があることが広く知られ、利用しやすい環境になればなと改めて思い、今現在独立してやっているという、そんな経緯がありました。

―― ADRは夫婦間でなるべく揉めずに解決したい場合に利用する、という漠然としたイメージがありました。それは、ADRの調停人の方々による、相談者さま達に親身に寄り添うようなサポートがあってこそのものだったのですね。
(小泉さん)
そうですね・・・。やはり、最初から険悪な雰囲気のご夫婦ってそういらっしゃらないんですよ。険悪になるまでには、それ相応の経緯があります。
例えば、最初は二人で協議をしていたけど拗れてしまったので、奥さまが旦那さまに何も言わずに弁護士に依頼をしたとしましょう。
すると、「奥さまから依頼を受けたので、今後は私(弁護士)が離婚手続きします。なので、これからは奥さまに連絡する際には必ず私を通してくださいね」という受任通知がいきなり旦那さま側に届くことになります。
そうなると旦那さまはびっくりしますよね。当然旦那さまから奥さまへの心証は悪くなります。旦那さまも弁護士に相談し、それ以降は弁護士同士の戦いになり、家庭裁判所で書面での応酬が続き、その中で相手に対するいらだちや怒りなど、負の感情がどんどん膨らんでしまう・・・という。
少しサポートをしてあげられる人が身近にいれば、そのような状況に陥ってしまう前に解決できたのでは?という方が結構多くいらっしゃるんです。離婚関連の法律について第三者が教えてあげるだけでも、それに沿って理性的に解決できる方がたくさんいらっしゃいます。
ご夫婦ともに法律の知識がないからこそ揉めてしまうので、少しでもそのような方が減るようにサポートができればいいなと思っています。
(参考)家族のためのADRセンター
3. ADRのメリットとは?

―― 家庭裁判所で行う調停とADRの違いはどのようなところにあるのでしょうか?民間のADRを利用するメリットを教えてください。
(小泉さん)
一番わかりやすいところでいうと「解決までの速さ」です。
家庭裁判所の調停ですと、やはり半年~1年ほどはかかってしまいます。ですが、ADRは基本3ヵ月くらいで解決することができ、もっと早く解決できるケースもあります。
お好きなペースで調停の期日を組めるところが最大のメリットですね。
―― 解決までのスピードが速いのは魅力的ですね!今の時代ならではのメリットなどはあるのでしょうか?
(小泉さん)
オンラインでもADRができることでしょうか。最近は、オンラインにてADRを実施したいというご要望はかなり多いですね。
オンライン調停ですとその場に足を運ばなくて済むので、「相手と同じ建物に入らなくていい」「子どもを預けるのが大変だけど、1時間くらいなら隣の部屋でDVDを見せておけばなんとかなりそう」など、かなり利便性が高く嬉しいお言葉をいただいています。当センターで行うADRの9割近くはオンラインです。
また、土日でも調停ができる点もADRのメリットの一つですね。
家庭裁判所は土日が休みですから、必ず平日の日中に会社を休んで家庭裁判所まで足を運ばなくてはなりませんが、ほとんどのADR機関が土日のどちらかは対応しています。
一般的なADRのメリットをまとめると、
- 解決までのスピードが早い
- 土日休みを利用して調停を行うことができる
- ADR機関によってはオンライン対応も可能
というところでしょうか。
―― 一般的なメリットとのことですが、違う切り口でのメリットもあるということでしょうか?
(小泉さん)
そうですね・・・。民間のADRと家庭裁判所での調停の両方やっていた私の立場としては、別のところにもメリットを感じています。
家庭裁判所で行う調停ですと、調停委員に不満を持つ方が非常に多いようです。
調停委員は、民間企業の定年退職者や教育関係の方、地元の名士さんなどのことが多いのですが、全く関係のない分野から採用されているケースもあるため、専門家とはいえない人もいまして・・・。
調停委員も家庭裁判所での研修をしっかりと受けますので、もちろんちゃんとした方はいらっしゃいますし、決して調停や調停委員が良くないと言っているわけではありませんよ。それに、家庭裁判所での調停には担当の裁判官が必ず一人つくため、最後には双方の言い分や希望をきちんと調整してくれます。
ですが、調停自体の進行や夫婦の状況や争点、それぞれの主張などのポイントをくみ取り、裁判官に伝える役割は調停委員です。
家庭裁判所調査官をやっていた私からすると、要点が裁判官に伝わりきっていなかったり、調停委員の主張がちぐはぐに感じたりすることがありました。担当する調停委員によって進行の質に差が出てしまう面は、家庭裁判所での調停のデメリットかなと思います。
一方ADRの調停人は、大前提として担当する案件の分野に関する法律の知識があります。そこに加えて、調停技法を学んでいる方がほとんどです。ですので、主張に対して誤解が生まれないのは当然のこと、当人の自己決定を促すような形で進行をしていきます。
そのため、調停人のレベルが高い点や、話し合いを円滑に進めることができる点がADRの一番のメリットではないかと個人的に思っています。
―― なるほど。私も実際に、離婚調停をされている方から「調停人の方がドライで・・・」とか「自分の主張がうまく伝わっていなかったみたいで・・・」などというお声を何回か聴いたことがあります。離婚というセンシティブな問題で悩んでいて、精神的にも不安定になっている状況だからこそ、より心のこもった対応をしていただけるとありがたいですよね。
4. 自分に合った解決方法の見極め方とは?

4-1. ADRでの解決が向いている場合
―― ADRを利用される方はどのような方たちなのでしょうか?向いている人の特徴を教えてください。
(小泉さん)
ADRを利用される方は、家庭裁判所での調停が物理的に難しい場合や、共働きの場合が多いのですが、中でも夫婦ともに離婚の意思があり、できるだけ円満に解決したいとお考えの場合に利用されるケースが非常に多いです。
お子さんがいる場合、離婚をしても親としての関係は続きます。そんな中激しく争ってしまうと、今後子どもに何かあったときに相手に相談しにくかったりしますよね。
なので、なるべく穏便に済ませたい、でも二人だけだと揉めかねないから第三者が入ってほしい、というニーズがかなり高いのだと思います。
―― なるほど。片方が海外にいて物理的に家庭裁判所に行くのが難しい夫婦や、共働きで都合がつきにくい夫婦が主に民間のADRを利用しているイメージでした。なるべく穏便に済ませたいという方が多いのですね。
―― 先ほど伺ったように、土日に日程を組めたりオンライン調停ができたりとかなり柔軟に対応していただけるので、利便性の面でもADRを選択する方も多いように感じます。
(小泉さん)
そうですね。もともと、対面とオンラインが9対1くらいの割合で、当時ADRをオンラインで行うのは、片方が海外駐在員などでどうしても対面での調停が難しい方くらいでした。
ですが、コロナ禍を経てこの割合は逆転しましたし、様々な規制が軽減された今でもこの割合は変わりません。みなさん、コロナじゃなくてもオンラインの方がいいのでしょうね。
もちろん、そう思われるのには様々な理由があるとは思いますが、これからもオンラインでの調停が主流になっていくのではないかと思っています。

4-2. 家庭裁判所での解決が向いている場合
―― 逆に、ADRより家庭裁判所での調停のほうが向いている方は、どのようなケースなのでしょうか?
(小泉さん)
ケースとしては二つあります。
一つ目は、収入面でADRの利用にハードルがある場合です。ADRで離婚意思の合意や取り決めを行い、公正証書の作成までを行う場合、お一人あたり大体10万円弱の費用感になります。
例えば、年収200万円以下の方ですと、この時点で結構な負担額になりますよね。また、ADRの回数が増えれば増えるほど調停費用は掛かりますので、費用の捻出が負担になることがあります。
そのため、しっかりと話し合えないような場合は、初期費用のみで何回話し合っても無料である家庭裁判所の調停をご案内することもあります。
二つ目は、相手方に理性的な判断を期待できない場合です。
例えば、家庭裁判所の調停で養育費を決めるときは、裁判所が公式に発表している養育費算定表を参考に養育費を決めていきます。ADRでも、養育費の金額で双方が折り合わない場合、養育費算定表を基準とした金額をご提案します。
通常であれば、「どうせ家庭裁判所で争っても同じ金額になるなら」と算定表上の金額で合意する方が多いのですが、中には、どうしても裁判所で結論を出されるまで徹底的に主張したい、という方もおられます。こういった方は、家庭裁判所での調停が適しています。
なので、こういった方々や、早期な解決を求めておらず、むしろじっくり考えながらゆっくりと調停を進めたい場合には、最初のカウンセリングの時点でADR調停ではなく家庭裁判所での調停をおすすめすることがあります。
―― なるほど・・・。適している解決方法は、相談者さまの性格や状況などによっても変わってくるのですね。
インタビュー後半では、実際に家族のためのADRセンターを利用するときの流れやかかる費用、大体の期間、ADRが対応できる案件についてお話をお伺いしました。是非ご覧ください!
◇◇ 記事の後半はこちら ◇◇
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