更新日: 2022.02.17
公開日:2020.08.17
離婚時の慰謝料に税金ってかかるの?子どもの扶養控除はどうなる?

離婚が成立した際、相手に過失がある場合は慰謝料が支払われることがありますが、税金はかかるのでしょうか。
さらに、子どもがいる場合は養育費の支払いがあることもありますが、離婚後の経済的な負担に対する心配は大きいはず。せっかくの慰謝料や養育費に税金による課税がされるのではないかと心配するのは嫌ですよね。
この記事では、慰謝料や養育費に税金がかかるのかどうかを、関連したお金の問題も交えて見ていきます。
~ この記事の監修 ~

青野・平山法律事務所
弁護士 青野 悠
夫婦関係を解消する場合、財産分与・養育費など多くの問題が付随して発生しますので、これらの問題を全体的にみて、より望ましい解決になるよう尽力します。
目次
1. そもそも慰謝料ってなに?

「慰謝料」とは、肉体的・精神的に配偶者から不当な扱いを受け、離婚の原因を作ったほうから損害を与えられたほうへ賠償として支払う費用です。離婚の理由は浮気や家庭内暴力(DV)などさまざまですが、肉体的・精神的な損害を被った際の補てんとして支払われるものとされています。
また、税金といえば、親族が亡くなり財産を受け継ぐ場合の「相続税」、会社から給与として受け取る場合の「所得税」、個人から金銭等を無償で受け取る場合の「贈与税」などが挙げられます。
2. 離婚時の慰謝料に税金はかかる?

では、離婚時に慰謝料を受ける場合に税金はかかるのでしょうか?
相続を受けた、給与所得を得た、贈与を受けたなど、新たに利益を得る場合には税金がかかりますが、慰謝料は原則として課税の対象とはなりません。慰謝料は、あくまで損害に対する補填という性質上、新たに利益を得ることにはならないためです。
ちなみに、慰謝料を謝罪金や示談金、解決金などという名目で支払った場合にも同様で税金はかかりません。また、離婚の際に監護者(子どもを実際に育てる親)へ非監護者から支払われる「養育費」も、原則として非課税となります。
養育費は子どもの生活費や医療費、教育費などにあてられるもので、こちらも新たな利益を得る行為ではないからです。非監護者の生活費を子どもの生活費等として分配することが目的なので、支払った養育費が目的通りに使用されていれば、課税の必要はないとされています。
なお、慰謝料が非課税であることは所得税法施行令第30条が定めており、養育費が非課税であることは所得税法9条が定めています。
前述の通り、基本的に離婚時の慰謝料は非課税とされていますが、中には所得税や贈与税、不動産取得税などが課税されるケースもあるので注意が必要です。離婚時に課税対象となるのは、慰謝料が「高額すぎると判断された場合」や、「利益とみなされた場合」などです。
ここからは、慰謝料が課税されるケースを見ていきましょう。
2-1. 慰謝料の代わりに不動産を受け取ったとき
夫婦間の財産譲渡であっても、贈与税の課税対象となります。贈与税とは、無償で財産を譲渡された場合にかかる税金で、贈与を受けた金額に対し毎年課税される(暦年贈与)のが特徴です。
暦年贈与は、譲渡された財産額から110万円の基礎控除を差し引いて計算され、財産額が110万円以下であれば贈与税はかかりません。しかし、一般的に不動産価格は110万円を超えることがほとんどなので、基本的に贈与税が課税されることになるでしょう。
ただし、離婚成立前の不動産贈与であっても、配偶者控除の要件を満たしていれば2,000万円まで非課税となります。
配偶者控除の要件とは、
- 婚姻期間が20年以上あること
- 譲渡する不動産が居住目的のものであること
- 贈与の翌年の3月15日までに該当不動産に居住し、引き続き居住見込みであること
などが挙げられます。
これらに該当するケースの場合、不動産価格が2,110万円までであれば贈与税はかかりません。なお、例外として、別荘などの居住目的でない不動産の場合は課税対象となるので注意が必要です。
また、離婚成立前に不動産を譲渡した場合、不動産取得税がかかってしまいます。不動産取得税とは各都道府県に支払う税金のことで、土地と住宅を合わせた場合固定資産税評価額の3%、土地だけの場合は固定資産税評価額の半分の3%となっています。これも例外として、建物が新築のケースでは、1,200万円の特例控除を受けることが可能です。
さらに、不動産の評価額が不動産入手時よりも上がっている場合は、譲渡所得税が必要になるケースもあるので注意が必要です。
2-2. 慰謝料が高額すぎるとき
世間一般的に考えて、慰謝料が高すぎるとされる場合にも贈与税が課税される可能性があります。基本的に、慰謝料は離婚に至った理由や、支払う側の生活能力などを元に金額が算出されます。
一般的な離婚慰謝料の相場は50〜300万円程度とされているため、これ以上の金額は高すぎると考えられているのです。不倫によって離婚に至り相手に子どもができたなど精神的な被害が大きいケースでは、慰謝料が300〜500万円に上ることも稀にあるので注意しましょう。
また、離婚の裁判で慰謝料が1,000万円を超えるケースはほとんどなく、このような高額の慰謝料は妥当でないと考えられています。あまりにも慰謝料が高額と判断されると、資産隠しや脱税、偽装離婚などを疑われる原因ともなるので注意が必要です。
(参考リンク)e-Gov(電子政府の総合窓口)|所得税法施行令
3. 税金がかからないようにする方法

前述の通り、慰謝料の代わりに不動産を受け取ったときや、慰謝料が高額すぎるときは所得税や贈与税、不動産取得税などがかかる場合があります。
ここでは、税金がかからないようにするためにはどのようにするべきかをご紹介をします。
3-1. 慰謝料を現金で支払ってもらう
不動産譲渡にて慰謝料の精算をする場合は税金が発生しますが、金銭で支払いを行う場合は、相場の範囲であれば社会通念上妥当な金額とされ、非課税となります。逆に、あまりに高額すぎると課税の対象となる場合があるため、注意が必要です。
なお、先ほど紹介した通り慰謝料の相場は50万~300万円程度ですので、ご自身の状況を踏まえて相場を目安に金額を設定しましょう。
3-2. 不動産の受け取りは離婚後にする
離婚の慰謝料として不動産を受け取る場合、譲渡のタイミングが離婚成立前か後かで課税の有無が異なります。
離婚成立前に不動産の譲渡が行われる場合は贈与税が発生しますが、離婚成立後に財産分与として不動産の譲渡が行われるケースでは、基本的に贈与税はかかりません。財産分与は夫婦の共有財産を清算するためのものなので、贈与とは区別されるのです。
また、離婚成立後に財産分与として不動産を譲り受けた場合は、離婚成立前に不動産を譲渡した際に発生する不動産取得税も課税されません。そのため、節税の面では、不動産は離婚成立後に譲渡するほうがおすすめです。
なお、不動産の価格が明らかに財産分与の範囲を超えていると判断された場合には、超過した部分について課税の対象となる可能性があります。このようなケースでは、いくらから税金がかかるのか専門家に相談するべきでしょう。
(参考記事)離婚時の財産分与に税金はかかるの?課税される対象や金額とは
3-3. 車の受け取りは時価を確認してからにする
慰謝料として車の譲渡を受けるケースも、譲渡される車の時価が110万円を超え慰謝料の相場よりも高い場合には、110万円を超えた金額が贈与税の対象となる可能性があります。
車の時価は、車の中古販売を行っている会社やディーラーで査定してもらえます。慰謝料として譲渡される前に必ず確認しておくようにしましょう。
3-4. 取り決めた慰謝料は書面にする
話が本筋からそれてしまいますが、万が一、所得隠しや脱税の疑いをかけられ税務調査が入った際に、その金額が慰謝料として支払われることが妥当であることがきちんと証明できるように、書面を作成しておくと安心です。
詳しくは、後述の「5. すべて書面に記録しておこう」にてご説明します。
4. 慰謝料と合わせて気にしてほしい、離婚時のお金について

これまで、慰謝料に税金がかかるケースをご紹介してきましたが、離婚時または離婚後に受け取る慰謝料以外のお金にも税金がかかる場合があります。慰謝料とあわせて確認しておきましょう。
4-1. 養育費を一括払いで受け取る場合
基本的に、養育費は成人していない子どもの監護養育に必要な生活費や医療費、教育費などにあてる費用です。
生活費として考えられる養育費は、子どもが成人になるまで基本的に毎月支払われるもの。毎月払いという形であれば、養育費支払い期間中にどちらか一方(もしくは双方)に病気や再婚など事情の変化があっても、公平になるよう条件を変更できるというメリットもあります。
このように基本的に毎月払いなのが養育費ですが、双方の合意があればボーナスのタイミングで金額を増やしたり、一括払いをしたりすることも可能です。ただし、一括払いの場合には、支払い時点における限度額を超えているとみなされる可能性があり、贈与税の対象となることもあるので注意しましょう。
中には養育費を月払いにすると、期間の途中で支払われなくなるかもしれないという理由で、一括払いを希望する人もいます。しかし、本来の養育費の目的が子どもの生活費という観点から裁判所においても養育費については月払いの判断がなされる傾向にあります。
このように、養育費の支払いは月払いになることが多いため税金を気にする必要は少ないです。一括で支払われる場合にだけ注意しましょう。
4-2. 治療費を受け取る場合
離婚の原因が相手による家庭内暴力やモラルハラスメントなどの場合、ひどいケースでは治療が必要になることもあるでしょう。
このように、損害賠償として請求した治療費はあくまで医療費を補てんするという性質上非課税となります。これらの暴力がなければそもそも被ることがなかった損害なので、損害賠償金によって損害を補てんし、元の状態に戻ることを目的とするため課税の対象とはならないのです。
損害賠償として治療費を受け取った場合、医療費控除を受けるのであれば支払った医療費から相手より支払われた治療費の額を差し引く必要があります。ただし、医療費を補てんした後で治療費にあまりが出ても、他の医療費から差し引く必要はありません。
また、入院時などにもらう見舞金についても基本非課税となりますが、あまりにも高額と判断された場合は課税の対象となります。
(参考サイト)国税庁|No.1700 加害者から治療費、慰謝料及び損害賠償金などを受け取ったとき
4-3. 財産分与を受け取る場合
基本的に離婚成立後の財産分与はあくまで共有財産の清算であるという観点から、贈与税は課税されません。しかし、あまりにも高額であると判断された場合は、超過分に対して課税されるおそれがあります。
たとえば、夫婦の共有財産が3,000万円の場合、基本的には財産分与2分の1ルールにより、双方の取得分は1,500万円ずつとなります。しかし、特に合理的な理由がなく片方が3,000万円すべてを受け取った場合など、取り分が不当とされて贈与税が課税される可能性があるのです。
また、前述したように、財産分与で不動産を分与する場合、不動産取得時よりも不動産分与時の評価額が上がっているケースでは、増価額に対して課税されることもあります。
さらに、贈与税の支払いを避けるために、離婚の意思がないにもかかわらず離婚届を提出する偽装離婚が発覚した場合は、離婚手続きによって手に入れた財産のすべてに贈与税がかかります。慰謝料という名目で財産を譲渡したとしても、実質には損害賠償ではなく贈与にあたるからです。
脱税などを目的に偽装離婚によって財産を譲渡するケースは、もはや税金の問題だけでなく、虚偽の離婚届を作成、提出したとして文書偽造の罪などで逮捕される可能性もあるのです。
4-4. 扶養控除など、離婚後に働きだす場合の注意
税金に関して、慰謝料や養育費といった費用の支払いの際に発生するケース以外にも、離婚時には「扶養控除」にも注意をしておきましょう。
ここでは、「妻(自分)が専業主婦、または夫の扶養内で働いている場合」を想定してご説明をします。
そもそも扶養控除とは、納税者(夫)に扶養している親族(妻や子)がいる場合に、納税者が一定の金額の所得控除が受けられることをいいます。
扶養控除の金額の範囲は38〜63万となり、扶養する親族の年齢により控除額が異なるのが特長です。16歳以上の被扶養者であれば扶養控除額は38万円ですが、19歳以上23歳未満の被扶養者には63万円の扶養控除が適用されます。
なお、16歳未満の子どもは年少扶養親族と呼ばれ、扶養控除の対象とはなりません。その代わり、16歳未満の子どもには「児童手当」が支給されます。また、離婚して一人で子どもを育てている人を対象に「寡婦控除」が適用され、16歳未満の子どもであっても所得から38万円が控除されます。
基本的に、夫婦のうち収入が多い一方が扶養控除申請をし控除を受けるケースが多く見られますが、離婚成立後に扶養控除を受けられるのはどちらか一方なので、子どもを扶養から外したほうはその分税金が上がることになります。
「離婚後、子どもの親権を持った方しか扶養控除は受けられない」と思われがちですが、離婚成立後に妻が親権を持っていたとしても、夫が別居中の子どもに養育費を支払っている間は、夫が扶養控除を申請することが可能です。
離婚後にご自身が働き始め、収入が103万円を超える場合は所得税が発生します。子どもを自分の扶養に入れておかないと扶養控除(または寡婦控除)が適用されず、その分所得税を多く払うことになってしまいます。
離婚後に子どもをどちらの扶養に入れるかは問題となりやすく、双方でしっかりと話し合う必要があるでしょう。
また、子どもはご自身(妻)と同居しているのに、夫の扶養に入ったままだと「子どもを夫に取られるのではないか」と不安に感じることがあるかもしれません。しかし、扶養控除はあくまで税控除の制度であるため、親権とは関係ないものといえます。
16歳以上の子どもがいる夫婦が離婚する場合は、このような不安を感じることがないよう事前に専門家などを交えてしっかりと話し合うのも良いでしょう。
5. すべて書面に記録しておこう

離婚に伴う慰謝料や養育費の支払い、財産分与などにおいては、一部の例外を除き基本的に課税されることはありません。しかし、金額の大小に関係なく、離婚に関する金銭の移動がある場合には、「離婚協議書」を作成しておくことをおすすめします。
「離婚協議書」には慰謝料や養育費、財産分与などについて、それぞれの条件なども記載しておくことができ、後々各項目について根拠を確認・説明することが可能です。たとえ後日税務署などから問い合わせがあった場合でも、離婚協議書を用いて説明し、正当な財産分与や慰謝料であることを証明することもできます。
このように、離婚後の夫婦間でのトラブルを避けるためにも、書面で残しておくことはとても大切です。
たとえば、離婚成立時に慰謝料や養育費の支払いを口約束だけとした場合、後々約束が守られないというケースも多く見られます。養育費の不払いなどがあった場合は、離婚協議書を元に優位な立場に立つことができるでしょう。
離婚協議書は自分たちで作成することもできますが、弁護士や行政書士などの専門家に任せるのがおすすめです。また、自分たちで作成する場合でも、なるべく公証役場で公正証書にしてもらいましょう。
公正証書とは法務大臣任命の公証人が作成する文書で、高い信頼性と証明力があるのはもちろんのこと、養育費等の支払いが滞った場合に、改めて裁判や調停をすることなく離婚した夫の給料を差し押さえるなど、強制執行を行うことができるのが特徴です。
(参考記事)離婚協議書の作成方法を解説。記載事項やひな形も紹介
6. 支払う側に税金がかかるケース
慰謝料を支払う側に税金がかかるケースとして、第三者に代わりに支払ってもらう場合が挙げられます。
本来、慰謝料を支払うべき当人に生活能力が足りない場合などに、親など第三者に肩代わりしてもらい慰謝料を支払うことがあります。このケースでは慰謝料を支払う人が他者から金銭を受け取って慰謝料とするとみなされるため、贈与税がかかってしまうことがあるのです。
ただし、あくまで慰謝料を支払う側の問題なので、慰謝料をもらう側は特に心配する必要はありません。
(まとめ)複雑なので税理士に頼ることも検討

慰謝料や養育費など、離婚時に動くお金は案外多いものです。
基本的には離婚に伴う金銭や財産は課税されませんが、中には課税の対象となるものもあるので一通りのチェックはしてみた方が無難です。高額な財産や金銭の移動がある場合は、たとえ税率が数%であっても支払うほうにとっては大きな影響を持ちます。
この場合は、税理士など正しい知識を持つ専門家に相談し、どのようなケースで課税されるのかをしっかりと理解しておくことが大切です。
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