更新日: 2022.07.28
公開日:2020.07.23
再婚したら養育費は減額される?減額される場合とされない場合

再婚すると経済的にも精神的にも生活は楽になるものの、今受け取っている養育費が減額されるのでは?と不安に思う方もいるかと思います。
養育費は、再婚したからといって必ず減額されるわけではありません。状況によっては減額されないケースもあります。
ここでは、再婚と養育費の関係や、再婚以外で養育費が変動するケースなどについて説明します。
~ この記事の監修 ~

青野・平山法律事務所
弁護士 青野 悠
夫婦関係を解消する場合、財産分与・養育費など多くの問題が付随して発生しますので、これらの問題を全体的にみて、より望ましい解決になるよう尽力します。
1. そもそも養育費とは?

まずは養育費がどういうものなのかを正確に理解しておきましょう。
養育費とは、まだ自活できない子どもが健全な生活を送れるように子どもを養育するための費用です。これは、未成熟な子どもは親が扶養する義務があるとする考え方に基づくものです。
たとえ、離婚によって子どもと離れて生活することになっても、その子の親である事実は変わりません。よって、子どもを扶養する義務があることは変わらず、直接育てていなかったり面会をしていない場合でも養育費を支払う義務があるのです。
大前提として、養育費は子どものためのお金です。しかし、シングルマザーのなかには、元夫が支払う養育費を自分のものと誤ってとらえている人がいます。養育費は、生活費や子どもの学費として使うべきものであると理解しておくことが大切です。
離婚する際には、養育費の金額や支払いを終了する時期などの条件を夫婦で話し合って取り決めるのが望ましいといえます。このとき決めた金額は、支払いが終了するまで基本的に変更されることはありません。
ただし、離婚後に元夫や自身、子どもの環境などに大きな変化があった場合、裁判所が「その変化の度合いは養育費の減額を認めるに足るものである」と判断すれば、養育費が減額されるケースもあります。 ここからは、再婚によって養育費の支払いの減額、または免除が認められるケースと認められないケースをご紹介していきます。
2. 受取人が再婚したとき、養育費はどうなる?

ここでは、受取人が再婚したときの養育費についてみていきましょう。
2-1. 受取人の再婚後に減額・免除が認められる場合
元夫から養育費の支払いを受けているシングルマザーが別の男性と再婚し、その再婚相手が子どもと養子縁組する場合、養育費の減額が認められる可能性があります。
なぜなら、養子縁組をした場合、再婚した相手が子どもの第一次的扶養義務者となり、再婚した相手に相応の収入があれば元夫の扶養義務は軽くなるためです。その結果、養育費の減額が認められることがあります。
再婚相手の収入に応じて養育費の支払い自体免除になることもあれば、多少の減額に留まることもあります。どのくらい減額されるかは、再婚したシングルマザーや再婚相手の収入状況などによって異なるため、改めて計算する必要があります。
2-2. 受取人の再婚後に減額・免除が認められない場合
再婚相手と子どもが養子縁組をしない場合は、再婚相手に子どもの扶養義務はありません。そのため、第一次的扶養義務者は元夫のままとなり、今後も養育費を支払い続ける義務は継続されます。
また、再婚相手と子どもを養子縁組させても、それだけで元夫からの養育費の減額が認めらないケースもあります。たとえば、再婚相手がなんらかの事情で働けなかったり収入が極端に少ないなど、子どもを養うだけの経済力がないとしましょう。
この場合は、「第二次的扶養義務者」である元夫が、これまでどおりの金額で養育費を支払う義務があります。たとえ元夫が養育費の減免請求を申し立てたとしても、認められる可能性は低いでしょう。
3. 支払人が再婚したとき養育費はどうなる?

養育費を支払う側である元夫が再婚したとき、養育費の金額に影響があるか心配になる人もいるでしょう。再婚したというだけでは、基本的に養育費の金額が変わることはありませんが、事情によって金額の変更が認められることもあり得ます。ここでは、いくつかのケースを見ていきましょう。
3-1. 支払人の再婚後に減額・免除が認められる場合
◇支払人と再婚相手の連れ子が養子縁組した
元夫が子どものいる女性と再婚し、その子と養子縁組をしたとしましょう。
この場合、元夫はその子どもの第一次的扶養義務者となり、養う対象が増えます。それだけ経済的な負担も増えるので、養育費の減額が認められる可能性が高いでしょう。
◇再婚相手との間に子どもができた
支払人と再婚相手の間に子どもができた場合も、その子どもの第一次的扶養義務者は支払人になります。
連れ子を養子縁組したケースと同様、支払人が養う対象が増えるため、養育費の減額が認められる可能性が高いのです。
3-2. 支払人の再婚後に減額・免除が認められない場合
◇支払人が再婚相手を扶養に入れた
元夫が子どものいない女性と再婚し、専業主婦である再婚相手を扶養に入れたとしましょう。この場合、たとえ元夫が再婚相手の扶養で経済的に苦しくなり、養育費の支払いが負担なので減額してほしいと希望しても、必ずしもそのとおりになるとは限りません。
なぜなら、再婚相手の女性はすでに結婚できる年齢であり、通常は自分が生活していく程度の収入を得ることは可能であるはずだからです。
とはいえ、再婚相手が健康上の理由で働きたくても働けないなどの事情があれば、状況は変わります。再婚相手が働けるのか、どうして専業主婦をしているのかなどの事情を考慮し、元夫が扶養する必要があるかどうかを判断して、養育費の減免の可否を決めることになります。
◇支払人が再婚相手の子どもを養子縁組しない
元夫が子どものいる女性と再婚したものの、その子どもと養子縁組はしていないとしましょう。このとき、元夫は再婚相手の子どもに対する扶養義務を負いません。そのため、養育費の額への影響はないでしょう。
ですが、子どもがまだ幼く、再婚相手が働きたくても働けないケースもあります。その場合は、再婚相手の女性を扶養する必要性が生じるため、減額が認められることもあるでしょう。
4. 変更が認められるその他の条件

再婚以外の理由でも、養育費が減額・増額することがあります。ここでは、養育費が増額されるケースと減額されるケースについてそれぞれ紹介します。
4-1. 減額が認められる条件
◇支払人の経済状況が悪化したとき
再婚以外で養育費の減額が認められる可能性があるのは、元夫の経済状況が悪化したときが挙げられます。たとえば、病気や事故、勤務先が倒産したなど、不測の事態で元夫の収入がなくなったり大幅に減ったりしたときです。
ただし、元夫があえて収入の低い仕事に転職したり、年収をわざと低く申告するなど、意図して収入が減ると予測できる変化を起こしたときは、減額が認められない可能性があります。
◇受取人の経済状況が大幅に向上したとき
また、離婚したあとで子どもを育てている側の経済状況が大幅に向上したときも、養育費の減額が認められやすいです。実際問題、支払人が受取人の収入状況を知る術はありませんので、受取人の収入増加による減額の相談をもちかけられることはあまりないでしょう。
しかし、取り決め上「お互いの収入に増減があったときは、再度協議をして金額を見直す」などといった文言がある場合は、増収したことを報告したり話し合いに応じる必要が出てくるでしょう。減額されるのが嫌だからといって無視せず、話し合いには応じその中で減額の可否の交渉を進めるようにしましょう。
4-2. 増額が認められる条件
◇支払人の経済状況が大幅に向上したとき
元夫側の収入が大幅に向上したとき、支払人の再婚後に養育費の増額が認められることもあります。これは、子どもは親と同等の生活をする権利があるためです。
◇受取人の経済状況が悪化したとき
例えば、
- 子どもが私立学校へ進学したり病気になるなど、まとまったお金が必要になったとき
- 子どもを育てている養育費受取人が失業したとき
- 子どもを育てている養育費受取人の経済状況が著しく悪化したとき
が挙げられます。
5. 減免のポイントとなる、再婚時の「養子縁組」

これまでの説明にもたびたび登場した「養子縁組」。お気づきの通り、再婚時に「養子縁組」をするかしないかが今後の養育費の金額を決める重要なポイントとなります。
ここでは、養子縁組についてご説明します。
5-1. 養子縁組とは
養子縁組とは、血縁関係のない者同士を法的に親子関係とする手続きです。養子縁組をすると、再婚相手と子どもの間に相続権や扶養義務が発生します。また、子どもは再婚相手の戸籍に入るため、再婚相手の名字に自動的に変わります。
養子縁組をしたときに発生する扶養義務は、再婚相手から子どもに対するものだけではありません。子どもから再婚相手に対しても、介護の義務が生じます。
養子縁組をしない限り、再婚相手と子どもとの間に法的な親子関係や扶養義務は生まれない上、子どもの名字も元夫の姓のままです。養子縁組をしなくても子どもの名字を変更することは可能ですが、そのためには家庭裁判所に「子の氏の変更許可」の申し立てをしなければなりません。
養子縁組には「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2種類があります。この2つの大きな違いは、実の父親との法律上の親子関係が継続するかどうかという点です。
普通養子縁組をすると、養父と子どもに親子関係ができる一方で、実の父親との親子関係も継続します。書類を役所に提出して受理されれば手続きが完了します。
特別養子縁組の場合は、養父と子どもに親子関係ができ、実の父親との親子関係は消滅します。原則として6歳未満の子どもに限り、家庭裁判所に審判申立てを行うことが必要です。
認められる要件が厳しく、実親との親子関係の終了が子の利益に合致する場合にのみ認められることから、特別養子縁組を認める審判を得るのは容易なことではありません。
そのため、再婚相手の養子になるときは、普通養子縁組をすることが一般的です。
5-2. 養子縁組をする方法
普通養子縁組の場合、手続きはさほど難しくありません。養親か養子の本籍地、もしくは届出人の住所地にある市町村役場の戸籍を扱う部署に必要な書類を提出するだけです。
このとき、先に再婚相手との「婚姻届」を提出し、その後に「養子縁組届」を提出すると良いでしょう。
なぜなら、未成年の子どもを養子縁組するときは、原則として家庭裁判所の許可が必要になるためです。配偶者の子を養子とする場合には許可が不要となるため、再婚を先に成立させておけば、裁判所の許可を得ずに養子縁組をすることができ、スムーズに手続きを進められます。
なお、婚姻届にも養子縁組届にも、成人した証人2人による署名・押印が必要です。成人している友人や家族に頼んで書いてもらいましょう。
6. どれくらい養育費が減額されるのか

親権を持つシングルマザーが再婚し、再婚相手が子どもと養子縁組した場合、養育費がどのくらい減額されるか、相場が気になるところでしょう。
おおまかな減額の目安は、裁判所のサイトで公開されている「養育費・婚姻費用算定表(注1)」で知ることができます。この表は裁判所でも使われるため、一応の参考になるでしょう。
(注1:参考サイト)裁判所|養育費・婚姻費用算定表
とはいえ、これは再婚や連れ子がいることを想定したものではありません。
また、実際の家族は年齢や生活環境がさまざまで、複雑な要素が絡み合っていることが多いものです。そのため、この算定表や相場から減る金額を正しく算出することは難しいでしょう。
できるだけ正確な金額を知りたいのであれば、弁護士に相談して計算してもらうと確実です。初回相談にかぎり無料としている弁護士事務所もあるので、利用してみると良いでしょう。
7. 養育費の減額を求められる流れ

さまざまな事情から、元夫が養育費の減額を相談してくることもあるでしょう。そのときは、どのような手順で進めることになるのでしょうか。
7-1. まず話し合い
まずは、減額を申し出てきた元夫としっかり話し合うようにしましょう。
余計なトラブルを回避するためには、当事者間で話し合うことがなにより大切です。元夫側にも、養育費の減額を申し出るだけの環境の変化やなんらかの事情が生じたと考えられます。
頭ごなしに減額は認められないとつっぱねるのではなく、相手の話もきちんと聞いたうえでこちらの事情もしっかりと話し、双方が納得できるまでじっくり話し合うことが大切です。うまい落としどころが見つかるかもしれませんよ。
しかし、どれだけ話し合っても、元夫の提示する金額や減額することそのものに納得がいかないときもあるでしょう。話し合いがまとまらないときは、家庭裁判所での調停にうつることになります。
7-2. 話がまとまらなければ調停
話し合いでまとまらない場合には、家庭裁判所にて「養育費減額調停」を行うことになります。減額を申し出てきているのは元夫の方なので、家庭裁判所に調停の申し立てを行うのも元夫です。
調停では第三者である調停委員が間に入り、双方の言い分を聞いたうえで、助言や解決策の提案なども行いながら手続きを進めていきます。
当事者のみで話し合うと、感情的になってしまって冷静に意見を伝えられずにこじれることもありますが、調停では間に調停委員が入るため落ち着いて考えやすくなります。
調停は、通常1回で終わるものではありません。2回目以降、およそ月に1回のペースで数回開催されます。合意すれば調停成立として終了です。
合意が困難と判断されたときは調停不成立として終了し、自動的に審判手続きに入ります。審判とは、裁判官が双方の意見や事情を踏まえて、一定の結論を出すという手続きです。
8. 養育費の支払いを打ち切られてしまった時の対処法

元夫に再婚したことが知られて、同意もしていないのに一方的に養育費の支払いが打ち切りになってしまうケースは往々にして起こります。
ここでは、養育費の未払いが起きたときにとれる手段を紹介します。
8-1. 債務名義で養育費を取り決めた場合
養育費に関する取り決めが、調停調書や和解調書などといった債務名義である場合は、強制執行による差押えができます。
強制執行とは、債務名義を得た人の申し立てに基づき、元夫に対して、裁判所が給与差押えなどによって強制的に支払わせることを言います。
また、債務名義とは、お互い合意の上で取り決めた約束事が果たされなかった場合、約束を破られた側が破った側に対して強制執行を申し立てることを許可した文書です。 家庭裁判所を挟んで離婚を成立させた場合、調停調書や和解調書が作成されます。これらはすべて債務名義です。
なお、公正証書は債務名義ではありませんが、公正証書内に「強制執行認諾文言」の記載がある場合には、債務名義として認められ強制執行が可能となります。
強制執行認諾文言とは「支払いの約束を守れないときは強制執行されても異議を唱えない」といった内容の文言です。
もし、取り決め書面が債務名義の場合は、元夫に対して給与や預貯金口座を差し押さえることができる強制執行を検討し、養育費を確保するようにしましょう。
8-2. 債務名義ではない書面や口約束で養育費を取り決めた場合
養育費に関する条件を債務名義でない書面や口約束で取り決めていた場合、元夫が養育費を支払わなかったときでも、すぐに強制執行をすることができません。
取り決めた養育費の請求をしても支払ってもらえない場合には、まずは家庭裁判所に養育費請求調停を申し立て、調停で改めて養育費について取り決める必要があります。養育費請求調停とは、調停委員を間に挟んで養育費について話し合う制度です。
調停が成立して養育費の金額が決定したにもかかわらず、その後未払いが続いた場合は、強制執行により、元夫の給料や預貯金などの差押えができることもあります。
(関連記事)養育費の相場ってどれくらい?未払いを防止する方法ってあるの?
(まとめ)元パートナーや再婚相手とよく話し合おう

養育費を受け取る側が再婚し、再婚相手と子どもが養子縁組をしたときは、養育費の減額が認められる可能性があります。
一般的に、再婚すると経済的な負担は減ることが多いですが、夫婦で別々の家計にしたり再婚相手に十分な資力がない場合などは、養育費が減ったりなくなると困る人もいるでしょう。養育費が減額される可能性を考慮し、養子縁組をするかどうかを再婚相手と話し合うことが大切です。
また、支払人から養育費減額の相談をされることもあるかもしれません。
減額に応じたくないからと無視を貫き通すと、突然養育費の減額調停の申し立てをされたり、支払人の心証を損ね養育費の支払い自体が止まってしまったりと揉めかねません。離婚後に無用なトラブルを避けるためにも、話し合いには応じつつ自分の主張はきっちりと伝えるよう心がけましょう。
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