更新日: 2023.01.16
公開日:2020.08.03
離婚時の年金分割制度とは?手続き方法・計算方法についても解説

離婚時において、年金分割は必ず知っておきたい制度のひとつです。
特に熟年離婚の場合は、定年や年金の受け取りが間近に迫ってくるため、退職金の取り扱いとともに、年金のことが気になる人も多いのではないでしょうか。
ここでは、離婚で年金分割を決める際の計算方法や期限、具体的な手続きの方法について紹介します。
~ この記事の監修 ~

わたしのみらい法律事務所
弁護士 渡邊 未来子
弁護士登録後に保育士資格を取得。養育費保証制度の相談会やセミナー、子ども食堂支援等を通じて、ひとり親家庭の支援活動を行っている。
1. 離婚時の年金分割とは

年金分割とは、離婚の際に婚姻期間中の厚生年金記録に基づき夫婦で分割割合を決め、将来支給される年金を分け合うことを言います。
婚姻期間中に築いた財産は、夫婦2人の共有財産として扱われます。この共有財産には、婚姻期間中に納めた年金保険料も含まれるのです。
なお、年金分割の目的は、
- 専業主婦(夫)など、自分名義での年金保険料の納付額が少ない方を守るため
- 離婚する場合に、それまでの実績を平等に分け合うため
を目的とした制度です。
そもそも、将来の年金支給額は年金保険料の納付額が関係しています。給与が高い方ほど年金保険料が多く徴収され、その分将来の年金支給額も多く支給される仕組みになっています。
したがって、配偶者より給与が低い方は、年金分割を行うことで将来支給される年金額を増やすことができるというメリットがあるのです。
なお、年金分割の対象は厚生年金のみとなります。厚生年金は主に企業に所属する給与所得者(サラリーマン)が加入する年金制度です。
2015年に共済年金が厚生年金に統一されたことに伴い、現在は公務員などの共済組合の組合員も厚生年金の対象となっています。残念ながら自営業の方は国民年金のみなので年金分割の対象になりません。
2. 離婚時に年金分割ができる条件とは?

年金分割を受けられる条件には、例えば以下のようなものがあります。
- 婚姻期間中の厚生年金保険の納付記録があること
- 夫婦のお互いの合意、もしくは裁判手続きにより分割する割合を決めている
- 年金分割の請求期限を過ぎていない
- 専業主婦(夫)の場合、2008年4月1日以降に離婚しており一方が第3号被保険者である期間がある
年金分割の種類によっても条件は変わってくるため、種類とあわせて後ほど詳しく説明します。
なお、配偶者が年金分割を求めた際に、被保険者はこれを拒否することができません。しかし、中には例外もあります。以下4つのケースは年金分割できる条件を満たしません。
- 年金分割をしないという合意が得られている
- 年金分割の請求期限を過ぎている
- 夫婦2人とも国民年金保険料しか払っていない
- 結婚前の年金保険料
これらの場合には、離婚時に年金分割をすることができませんので、予め確認しておきましょう。
3. 離婚時の年金分割には2種類ある

年金分割には、合意分割と3号分割の2つの方法があります。
ざっくり言うと、年金分割を受ける側が第3号被保険者(配偶者の扶養に入っている)かどうかで分割方法が変わってくるのです。
ここでは、合意分割と3号分割の2つの方法についてご説明します。
3-1. 合意分割
合意分割とは、夫婦の合意のもと、婚姻期間に納めた厚生年金保険料の分割の割合(按分割合)を決める方法です。
もし合意が得られない場合には、家庭裁判所に調停や裁判を申し立てて、按分割合を決めることになります。
夫婦双方が第2号被保険者だったり、夫婦の一方が第2号被保険者でもう一方が第1号被保険者の共働きだった場合は、合意分割を行います。
<条件>
- 婚姻期間中の厚生年金記録がある
- 夫婦のお互いの合意、もしくは調停・裁判手続きにより按分割合を決めている
- 年金分割の請求期限が過ぎていない
<按分割合>
夫婦の話し合いによって決める(合意分割での按分割合の上限は2分の1)
※話し合いで決められない場合は、裁判所での調停や審判によって決める
<対象期間>
婚姻期間中の厚生年金保険の納付記録がある期間
3-2. 3号分割
3号分割とは、婚姻期間中に国民年金第3号被保険者だった方が、配偶者の厚生年金記録を分割できる方法です。この国民年金第3号被保険者とは、厚生年金被保険者の被扶養配偶者のことをいいます。
20歳以上60歳未満の方が対象範囲となっており、具体的にはサラリーマンや公務員の配偶者を持つ専業主婦(夫)などが該当します。
<条件>
- 婚姻期間中の厚生年金保険の納付記録がある
- 2008年4月1日以降に離婚、または内縁関係を解消している
- 2008年4月1日以降に、一方が第3号被保険者である期間がある
- 請求期限を過ぎていない
<分割割合>
一律で2分の1
<対象期間>
婚姻期間中の厚生年金保険の納付記録がある期間のうち、その第3号被保険者だった期間
4. 離婚時の年金分割の手続き方法とは?

ここでは、合意分割と3号分割の手続き方法や必要書類をご紹介します。
なお、いずれの方法でも、請求期限は離婚が成立した翌日から2年間です。請求期限が過ぎてしまうと年金分割の請求ができなくなるので、期限内に請求手続きをするようにしましょう。
4-1. 合意分割の手続き方法
合意分割の手続きは以下のように進みます。
- 合意分割に関する情報提供の請求をする
- 合意分割に関する情報提供を受ける
- 提供された情報をもとに、年金分割や按分割合について当事者間で話し合いをする
合意した場合 :按分割合について合意書を作成する
合意できない場合:家庭裁判所に「年金分割の割合を定める審判又は調停」を申立て、裁判で決定する - 合意分割の請求をする
- 標準報酬改定通知書が交付される(請求完了)
1番目の「合意分割に関する情報提供の請求」は、お近くの年金事務所に対して行います。
なお、情報提供の請求は当事者のどちらか一方で行うことが可能です。年金事務所から提供された情報をもとに、夫婦間で年金分割について話し合いをします。
話し合いで按分割合が決定したら、合意書や公正証書などを作成しましょう。裁判で決定した場合は、決定内容が記載された審判書や調停調書、判決書が発行されます。
離婚が成立した後、実際に合意分割の請求をします。これは、お近くの年金事務所に対して行います。なお、請求の際は当事者双方がそろって年金事務所に行く必要があります。
請求が完了すると、日本年金機構から改定後の標準報酬改定通知書がそれぞれに届き、手続きは完了します。
4-2. 3号分割の手続き方法
3号分割の手続きは以下のように進みます。
- 第3号被保険者による3号分割の請求をする
- 標準報酬改定通知書が交付される(請求完了)
3号分割では、夫婦間で按分割合を決めたり合意をする必要がありません。そのため、情報請求の過程は不要となり、いきなり年金事務所に3号分割の請求をするところから始まります。
なお、請求は第3号被保険者(専業主婦(夫)など)だった方が行います。
請求が完了すると、日本年金機構から改定後の標準報酬改定通知書がそれぞれに届き、手続きは完了します。
4-3. 離婚時に合意分割・3号分割の併用が必要なケース
場合によっては、合意分割と3号分割の両方を行わなくてはならないケースもあります。
ここでは併用が必要になるケースを2つ紹介します。これらのケースに当てはまる場合には、合意分割と3号分割の両方を行うようにしましょう。
4-3-1. 2008年4月以前に結婚し、2008年4月以降に離婚した場合
3号分割は、2008年4月から施行された制度です。そのため、2008年4月1日以降の年金記録だけが3号分割の対象になります。
2008年4月以前に結婚していた夫婦が年金分割を行う場合は、2008年4月以前の期間分を合意分割し、2008年4月以降の期間分を3号分割する必要があります。
4-3-2. 婚姻期間中に分割を受ける側が被保険者区分の変更を行った場合
婚姻期間中、分割を受ける側の被保険者区分に変更があった場合は、合意分割と3号分割を併用して行う必要があります。
例えば、下のケースで考えてみましょう。
- 会社勤めのA子さんが会社勤めのB男さんと20歳のときに結婚
- A子さんが40歳で退職し、B男さんの扶養に入る
- A子さんが50歳のときにB男さんと離婚

この場合、20歳~40歳までのA子さんは第2号被保険者となるため、この20年分の年金記録は合意分割となります。ですが、40~50歳までのA子さんは第3号被保険者となるため、この10年分は3号分割にて年金分割をする必要があるのです。
5. 離婚時の年金分割に必要な書類は?

年金分割を請求する際に必要となる書類を、分割方法の種類によってご紹介します。
5-1. 合意分割の場合
情報提供の請求時の必要書類は以下3つです。
情報提供の請求時の必要書類 | 例 |
---|---|
年金分割のための情報提供請求書 | 日本年金機構のHPから様式をダウンロードできます(年金事務所や年金相談センターにも備え付けあり) |
基礎年金番号、またはマイナンバーを明らかにすることができる書類 | 年金手帳、年金証書、国民年金保険料納付書、日本年金機構から送付される書類、マイナンバーカード |
婚姻期間等を明らかにすることができる書類 | それぞれの戸籍謄本(全部事項証明書)、戸籍抄本(個人事項証明書) ※請求日から6ヵ月以内に交付され、婚姻日および離婚日が確認できるもの ※事実婚の場合、その事実を明らかにできる書類(住民票など) |
また、合意分割の請求時の必要書類は、以下の5つです。
合意分割の請求時の必要書類 | 例 |
---|---|
記入済みの標準報酬改定請求書 | 日本年金機構のHPから様式をダウンロードできます(年金事務所や年金相談センターにも備え付けあり) |
基礎年金番号、またはマイナンバーを明らかにすることができる書類 | 年金手帳、年金証書、国民年金保険料納付書、日本年金機構から送付される書類、マイナンバーカード |
婚姻期間等を明らかにすることができる書類 | それぞれの戸籍謄本(全部事項証明書)、戸籍抄本(個人事項証明書) ※請求日から6ヵ月以内に交付され、婚姻日および離婚日が確認できるもの ※事実婚の場合、その事実を明らかにできる書類(住民票など) |
請求前日から1ヵ月以内に交付された双方の生存を証明できる書類 | それぞれの戸籍謄本(全部事項証明書)、戸籍抄本(個人事項証明書)または住民票のいずれかの書類 ※請求書にマイナンバーを記入することで省略可能 |
年金分割の割合を明らかにすることができる書類 | <話し合いで決定した場合> 年金分割について定めた合意書、公正証書など <審判で決定した場合> 審判書(または判決書)の謄本、または抄本と確定証明書 <調停で決定した場合> 調停調書(または和解調書)の謄本、または抄本 |
5-2. 3号分割の場合
3号分割の請求時の必要書類は、以下の4つです。
3号分割の請求の必要書類 | 例 |
---|---|
記入済みの標準報酬改定請求書 | 日本年金機構のHPから様式をダウンロードできます(年金事務所や年金相談センターにも備え付けあり) |
基礎年金番号、またはマイナンバーを明らかにすることができる書類 | 年金手帳、年金証書、国民年金保険料納付書、日本年金機構から送付される書類、マイナンバーカード |
婚姻期間等を明らかにすることができる書類 | 双方の戸籍謄本(全部事項証明書)、戸籍抄本(個人事項証明書) ※請求日から6ヵ月以内に交付され、婚姻日および離婚日が確認できるもの ※事実婚の場合、その事実を明らかにできる書類(住民票など)と双方が3号分割を認めている旨の申立書 |
請求前日から1ヵ月以内に交付された双方の生存を証明できる書類 | それぞれの戸籍謄本(全部事項証明書)、戸籍抄本(個人事項証明書)または住民票のいずれかの書類 ※請求書にマイナンバーを記入することで省略可能 |
6. どのくらい受け取れる?年金の計算方法

年金分割をしたらお互いの年金がどれだけ増減するか、気になるところですよね。そもそも、金額がわからなければ年金分割のための話をまとめるのは難しいでしょう。
そのため、話し合いの際にはまず年金分割の計算を行うことになります。
年金分割の計算をするためには「年金分割情報通知書」が必要になります。まずは、お近くの年金事務所に「年金分割のための情報提供請求」をし、情報通知書を受け取るようにしましょう。
情報通知書が手元に届いたら、実際に計算をしていきます。計算の手順は以下のようになります。
- 夫と妻の対象期間標準報酬総額の合計を出す
- 按分割合50%として、夫婦それぞれの対象期間標準報酬総額を出す
- 分割後の夫婦それぞれの老齢厚生年金額を出す
ご覧の通り、年金分割の計算に必要な項目は、情報通知書に記載のある「対象期間標準報酬総額」と「按分割合の範囲」の2つです。
名称 | 説明 |
---|---|
対象期間標準報酬総額 | 分割の対象になる期間の厚生年金の標準報酬を、当事者の生年月日に応じた再評価率を用いて現在の価値に換算した額の合計額を指します。 |
按分割合の範囲 | 年金分割を請求される側の標準報酬総額のうち、請求する側にどれだけ分割することができるかを表した割合のことを指します。「0%を超え、50%以下」のような形式で記載されています。 |
受け取れる年金額は、厚生年金保険料の算定の基準となった標準報酬月額と標準賞与額である「標準報酬」をもとに計算されます。
ここでは、それぞれの項目でいくつか例をあげて、手順に沿って具体的に計算してみましょう。
6-1. 共働きの場合
共働きの場合は夫だけではなく妻が納付していたものも、年金分割の対象になります。以下の条件を仮定し、実際の2人の老齢厚生年金額を計算してみましょう。
<計算例の条件>
- 夫の対象期間標準報酬総額:1億5,000万円
- 妻の対象期間標準報酬総額:5,000万円
- 按分割合:50%
(手順1)夫と妻の対象期間標準報酬総額の合計を出す

夫:1億5,000万円 + 妻:5,000万円 =2億円
(手順2)按分割合50%として夫婦それぞれの対象期間標準報酬総額を出す

夫:2億円× 50% = 1億円
妻:2億円× 50% = 1億円
(手順3)分割後の夫婦それぞれの老齢厚生年金額を出す

夫:1億円× 5.481(※)/1,000 = 548,100円
妻:1億円× 5.481(※)/1,000 = 548,100円
(※) 5.481/1000は昭和21年4月2日以降に生まれた人の乗率
夫より収入が少ない妻の対象期間標準報酬総額が、年金分割によって5,000万円から1億円に増えることになります。
6-2. 専業主婦の場合
妻が専業主婦の場合も同様に以下の条件を仮定し、2人の老齢厚生年金額を計算してみましょう。
<計算例の条件>
- 夫の対象期間標準報酬総額:1億5,000万円
- 妻の対象期間標準報酬総額:0円
- 按分割合:50%
(手順1)夫と妻の対象期間標準報酬総額の合計を出す

夫:1億5,000万円+ 妻:0円=1億5,000万円
(手順2)按分割合50%として夫婦それぞれの対象期間標準報酬総額を出す

夫:1億5,000万円× 50% = 7,500万円
妻:1億5,000万円× 50% = 7,500万円
(手順3)分割後の夫婦それぞれの老齢厚生年金額を出す

夫:7,500万円× 5.481/1,000 = 411,075円
妻:7,500万円× 5.481/1,000 = 411,075円
(※) 5.481/1000は昭和21年4月2日以降に生まれた人の乗率
年金分割を行わなければ妻の対象期間標準報酬金額は0円だったところ、年金分割によって7,500万円に増えることになります。
6-3. 自営業の場合
自営業の場合は厚生年金ではなく国民年金になるので、年金分割の対象となりません。離婚をする場合は、年金分割の代わりに財産分与などの他の部分で調整を検討することになります。
(参考記事)子連れで離婚したい専業主婦が準備すべきこと!養育費をもらうためには?
7. 離婚時の年金分割の注意点

離婚時に年金分割する際に注意したい点や、年金分割した後に生まれがちな疑問について解説します。
7-1. 離婚後2年以内に請求手続きをする必要がある
戦術しましたが、年金分割は原則として離婚が成立した日の翌日から2年が請求期限となります。
請求期限を過ぎてしまうと年金分割をすることができなくなってしまいます。そのため、離婚が成立したらなるべく早く年金分割を請求するようにしましょう。
7-2. 事実婚(内縁関係)だった場合
事実婚(内縁関係)とは、婚姻届を提出せずに共同生活を営む関係をいいます。
事実婚の場合は、婚姻期間を明確に特定することが難しいため「片方が厚生年金保険に加入し、もう片方がその被保険者として国民年金の第3号被保険者と認められた期間」に限り、年金分割を行うことができます。
なお、事実婚の場合も請求期限があります。事実婚の関係が解消したと認められる日の翌日から2年です。具体的には、事実婚関係にある人が第3号被保険者資格を喪失した日が該当します。
7-3. 年金分割した後にどちらかが再婚した場合
年金分割をした側・された側、いずれかが再婚した場合でも分割された年金は支給され続けます。
なぜなら、離婚時の年金分割は婚姻期間中の年金保険料納付分のみを分割しているため、離婚後の婚姻状況の変化は無関係となるからです。
そのため、年金分割においては、離婚後の再婚事情は考慮しなくていいと考えて問題ありません。
7-4. 年金分割した後にどちらかが死亡した場合
年金分割をした側が死亡した場合でも、分割された年金は支給され続けます。
そのため、もしご自身が年金分割をされた側で、年金分割をした側の元夫が亡くなってしまった場合でも、自身が死亡するまでは分割された年金を受け取り続けることができるのです。
なお、年金分割をされた側が死亡した場合、年金分割をした側に分割された年金が戻ることはありません。
(まとめ)離婚前に必ず年金分割の話し合いをしよう

年金分割は、老後の生活に不平等が起こらないために大切な対策です。
しかし、年金をもらうのが先である20代・30代の方にとっては、忘れがちな財産といえます。そのため、気づかずそのまま請求期間を過ぎてしまうなんてことも珍しくありません。
年金分割をしない場合、収入が少ない側の人は老後にもらえる年金額が少なくなり、生活に困る可能性も出てきます。一方で、収入が多い側の人は年金額を減らさずに済むので、知識のある配偶者の場合は年金分割を拒否するよう求めてくるかもしれません。
しかし、歳を重ねて健康上の問題も出てきやすくなる中、お金の心配をしなければならないのはかなり辛いもの。複雑でわかりにくい年金分割の仕組みですが、離婚をする場合には必ず理解しておくことをおすすめします。
手続きに不安があるときや、ご自身や元パートナーに特殊な事情がある場合にも相談ができるので、ご自身のお住まいの管轄の年金事務所は、把握しておくようにしましょう。
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