更新日: 2023.02.03
公開日:2023.02.03
養育費には時効がある! 離婚後は早めの手続きが必要!
子どもがいる状況でパートナーと離婚をするとき、親権を持つ方(監護親)が養育費を請求するケースが一般的です。
ただし、養育費はいつでも好きなように請求できるわけではありません。養育費の支払いには時効があり、のんびりしていると時効が成立し、請求する権利を失ってしまうこともあるのです。
今回は、養育費を請求するためにすべきことやタイミング、手続きの方法をふまえ、時効の基礎知識などについて解説していきます。
~ この記事の監修 ~
青野・平山法律事務所
弁護士 青野 悠
夫婦関係を解消する場合、財産分与・養育費など多くの問題が付随して発生しますので、これらの問題を全体的にみて、より望ましい解決になるよう尽力します。
1. 養育費を請求するために取り決めること
子どもの養育にかかる費用を支払うことは、法律にも定められた親としての義務です。たとえ離婚したとしても、この責任から逃れられるものではありません。このため、離婚した場合は親権を持たない元パートナーに子どもの養育費を請求できます。
養育費に関する取り決めを離婚後に行うことは、法律上問題はありません。ですが、実際に離婚後にきちんと取り決められるかどうかで言うと相当難しいでしょう。そのため、離婚手続きの際に必ず取り決めるべきです。
ここでは、養育費を請求するために取り決めておくべき項目の代表例をご紹介します。
1-1. 請求するために取り決めること①金額
養育費を請求するためには、まず金額を決めなければなりません。養育費の支払義務者(非監護親)と受取権利者(監護親)の収入や子どもの人数など、さまざまな要素を加味して妥当な金額を設定します。
やみくもに高額な希望額を提示してしまうと、条件にお互い納得ができず離婚協議が平行線になってしまったり、決定しても後々支払われなくなってしまう恐れがあります。支払義務者が支払い続けられる範囲での金額を検討し、ある程度折り合いをつけることも大切です。なお、令和4年に行われた厚生労働省の調査によると、母子家庭の養育費の平均相場は月額50,485円となっています。
実際に請求する際にどのくらいの養育費が妥当なのかを知りたい場合は、こちらからシミュレーションできます(無料)。
(参考)養育費計算ツール
1-2. 請求するために取り決めること②支払期間
協議の際には、養育費の支払期間を決めましょう。養育費は、基本的に離婚直後から子どもが経済的に自立するまで請求することが可能です。一般的には、
- 子どもが成人に達するまで(18歳※民法改正後の成年年齢)
- 子どもが20歳に達するまで
と定めることが多いようです。
ただ、子どもが大学へ進学する可能性が高い場合、両親の学歴や経済状況等を鑑みて子どもが大学を卒業するときまで養育費の支払いを継続させることも可能です。
その場合は、後々いつ子どもが経済的に自立したかをめぐって争いになることを避けるために「22歳に達した後の3月まで」と支払期間の終期を明確に定めることが望ましいでしょう。
なお、養育費は請求したタイミング以降から受け取ることになり、請求していない場合は、過去にさかのぼって請求することは認められていません。
1-3. 請求するために取り決めること③支払方法
また、養育費の支払いをどのように行うかも明確に定めておく必要があります。例えば、
- 支払先(受取権利者の指定口座に振り込む など)
- 支払時期(当月分を毎月月末までに支払う など)
です。
振込で請求する場合は、振込先に指定する口座の情報(金融機関、支店名、口座番号、名義人)を明確にしておきましょう。
なお、一般的には定めた養育費額を毎月支払うケースがほとんどですが、場合によっては支払期間にかかる養育費を一括で支払うケースもあるようです。
2. 養育費を請求するために取り決める4つの方法
養育費の金額や支払時期、支払方法などについて双方で決めても、書面にして明確に記しておかないと後々トラブルになる可能性があります。養育費は子どもの健やかな成長に欠かせないものです。きちんと支払ってもらえるよう、離婚時にしっかりと取り決めて書面にしておくことが大切です。
ここでは、養育費の取り決め方法について、代表的な4つの方法をご説明します。
2-1. 離婚協議書で決める
離婚の話し合いは、口頭で済ませるケースも多いでしょう。
しかし、口約束だと内容を忘れてしまったり、「言った」「言わない」の水掛け論になることも珍しくありません。これではトラブルを解決しにくく、養育費をきちんと支払ってもらえなくなる可能性もあります。このような事態を避けるためにも、離婚時に「離婚協議書」を作成しておきましょう。
離婚協議書とは、離婚時にお互い合意した内容や、離婚の条件、養育費の支払条件などについてまとめた合意書のことです。養育費の支払いに関してトラブルになった際は、夫婦双方が取り決めた条件に合意をした証拠として活用できます。
(参考記事)離婚協議書の作成方法を解説。記載事項やひな形も紹介
2-2. 公正証書で決める
より公的な書面で合意内容を残したい場合は、「公正証書」を作成するケースが多いです。
公正証書とは、当事者間で合意した離婚条件や養育費の支払条件などをまとめた書面(案文)を公証役場に提出し、公証人がその案文に基づいて作成する公的な証明書のことです。
公証役場は法務省に属する機関であり、公証人は法務大臣から任命を受けた公的な立場の人です。彼らが法律に基づいて作成した書面は公文書となり、高い証明力や証拠力を持ちます。このため、離婚後に養育費が未払いとなりトラブルになった場合でも、請求時に有用な証拠として活用できます。
しかも、公正証書の作成時に強制執行認諾文言を付けておけば、養育費の支払いが滞ったときに裁判の手続きを待たなくても強制執行が可能になります。強制執行認諾文言とは、公正証書で定めた養育費などを支払わずに滞納が生じた場合などに、財産の差し押さえ(強制執行)に応じる旨を支払義務者(元夫)が認める文言です。
この場合、離婚協議書とは異なり、未払いとなったらすぐに強制執行にて元夫の給与や預貯金を差し押さえができるため、養育費をしっかりと受けとることができ安心です。
2-3. 離婚調停や養育費調停・審判をして決める
当事者間の話し合いで養育費に関する話がまとまらないときは、離婚調停や養育費調停によって取り決めるという方法もあります。
調停とは、当事者の間に第三者(調停委員)が入り、解決するために助言や提案などを行う制度です。調停をしたい場合はその地域を管轄する家庭裁判所に申立てを行い、当事者に加えて裁判官や調停委員と一緒に話し合いを進めます。
調停の種類 | 調停で話し合う内容 |
---|---|
離婚調停 | 離婚するかどうかという根本的な内容をはじめ、慰謝料や財産分与、親権などについて話し合う |
養育費調停 | 子どもの養育にかかる費用や妻や夫の収入など、さまざまな事情を確認したうえで養育費について話し合う |
調停が成立すると「調停調書」が作成されます。これは、調停で決まった離婚条件や養育費の支払い条件が明記された執行力のある公文書(債務名義)です。
調停が不成立となると審判に移行します。審判とは、裁判官が調停での話し合いや当事者の言い分・希望を聞き、折衷案を提示するものです。審判が成立すると「審判書」が作成されます。
なお、調停成立時に作成される「調停調書」や審判成立時に作成される「審判書」は、公正証書と同じく訴訟手続きをしなくても強制執行できるため、支払いが滞ったときにもスムーズな対処が可能です。
2-4. 離婚訴訟によって決める
当事者間の話し合いや調停・審判でも合意にいたらなかった場合は、離婚訴訟をします。
離婚訴訟は、家庭裁判所に訴状を提出して離婚や養育費の条件などについて主張し、裁判所が提案する和解案のもとで合意を目指すものです。和解が成立しない場合は、さまざまな事情を検討したうえで、裁判所が離婚の可否や養育費・慰謝料の額などを言い渡します。
離婚訴訟をして和解した場合は「和解調書」、和解できず判決で決定した場合は「判決書」として決定事項が記されます。
裁判で決まった内容には法的拘束力があるため、離婚後にトラブルが起きたときも安心です。
ただし、裁判を有利に進めるには、効果的な主張や証拠の提出が必要になるため、専門知識を持つ弁護士のサポートを受けたほうが良いでしょう。訴訟を起こすこと自体は個人でも可能ですが、主張の仕方や証拠提出を誤ることで裁判に負ける恐れもあるため注意が必要です。
3. 養育費を請求できないケース
全てのひとり親家庭の子どもには、取り決めの有無にかかわらず養育費を受け取る権利があります。ですが、場合によっては養育費の請求が困難なケースもあるのです。
ここでは、養育費の請求ができないケースをご紹介します。
3-1. 取り決めをしていない過去分
養育費の支払条件をきちんと書面で取り決めていれば、たとえ未払いになっても後から請求できます。
ですが、離婚時に養育費についてはっきりと取り決めをしていなかった場合、過去分の請求はほぼ不可能だと言っても過言ではありません。
なぜなら、支払条件を取り決めた証拠を明確に示すことができないためです。「いつからいつまでの期間は毎月何円を支払う」など、支払開始日や金額が明確でなかったにもかかわらず請求し相手に支払わせることは現実的ではありません。加えて、支払義務者が養育費の支払いに合意していた証拠も示せないため、こちらが主張する金額に素直に支払う可能性は低いでしょう。
裁判所に養育費請求調停を申立てたとしても、基本的に申立て以前の養育費の請求はほとんどが認められません。ただし、元夫が過去分の養育費の支払いに合意してくれれば、過去分の養育費についても支払ってもらうことはできます。
また、養育費請求調停が成立した場合は、申立てから調停成立までの養育費をまとめて支払ってもらったうえで、それ以降の養育費を支払ってもらうことも可能です。
3-2. 時効が成立してしまっている養育費
離婚時に養育費ついて離婚協議書や公正証書、調停調書などで取決めをしていた場合、請求の権利がはっきりしているため、支払期限が到来している過去分は全額請求できます。しかし、すでに消滅時効を迎えていると請求ができないので注意しましょう。
支払いを請求できる権利には消滅時効が定められています。離婚から何年も経過していると養育費を請求できる権利が消滅し、受け取れるはずだった養育費が受け取れなくなることもあるのです。時効の期間は養育費の取り決め方によって異なります。
取決め方 | 時効になるまでの期間 |
---|---|
当事者間の話し合いである離婚協議書や、公正証書の場合 | 5年間 |
離婚調停や養育費調停、離婚訴訟など、裁判所の手続きを経た場合 | 10年間 |
取決め方による時効になるまでの期間
当事者間の話し合いで養育費を取り決めるのは手軽ですが、その一方で消滅時効を早く迎えてしまうため注意しなければなりません。たとえば、10年前に離婚し6年前から支払いがストップしたとします。
公正証書で養育費の取り決めをしていた場合、消滅時効は5年なので、6年分の養育費のうち1年分は請求できません。
一方、調停や訴訟で取り決めをしていた場合は、時効が10年なので、支払いが滞っている6年分をすべて請求できます。
4. 養育費の時効を止めるための方法は?
養育費の消滅時効は、特定の条件を満たしたとき進行を止めることができます。養育費が未払いとなってからもうすぐ5年、または10年が経過してしまいそうな場合でも、消滅時効の進行を中断できれば養育費を請求できるかもしれません。
いざというときに備えて、時効の進行が中断される具体的なケースを知っておきましょう。
4-1. 権利の承認
権利の承認とは、元夫が「相手には養育費を請求できる権利がある」、あるいは「自分に養育費の支払い義務がある」という事実を認めることです。養育費を請求したときに、
- 元夫が「わかっている」「〇日までに支払う」など、支払い義務を自覚した言葉を発する
- 元夫が「〇日までに〇円支払う」などという旨の誓約書を作成する
これらをしていると、権利の承認があったと見なされて時効は中断します。
ただし、口頭で支払うと言っただけでは権利の承認があった証拠が残らないため、時効が中断されるとは限りません。元夫が権利の承認の成立を裁判で争ってきた場合には、権利を承認したことの証拠が必要になるので、トラブルを避けるためにも誓約書などの書面を作成しておくと安心です。
なお、元夫が請求された養育費を1円でも支払っていると、支払い義務を認めたと見なされて時効は中断します。養育費の支払いがストップした場合は、時効になるのを少しでも遅らせるために、元夫に「とりあえず今支払えるだけの金額で良いから支払って」などの説得をして、たとえ少額だったとしても請求し、支払ってもらうのが良いでしょう。
4-2. 裁判上の請求
離婚訴訟や調停など、養育費に関する手続きを裁判所に申し立てていた場合も、時効が中断します。
離婚協議書や公正証書で養育費の取り決めをした場合は、裁判上の請求ではないため、時効は中断できません。ただし、これらの書面をもとに養育費調停を起こせば時効を中断させることができるので、書面だけで話し合いを済ませていた場合も諦めずに裁判所に申し立てをしましょう。
なお、離婚協議書や公正証書にもとづいた養育費調停を行った場合、本来は5年間の時効が10年間に延長されます。
4-3. 仮差押、差押
調停や審判、裁判など養育費の支払いについて裁判所の決定を経ている場合、または強制執行認諾文言付の公正証書を作成している場合は、養育費の支払いが止まると強制執行ができます。
強制執行とは、元夫の給与や預貯金などを差し押さえてお金を回収することを指し、差し押さえが実行された時点で時効は中断します。
ただし、給与や預貯金を差し押さえする場合、元夫名義の口座の金融機関名・支店名などを把握する必要があるので注意しましょう。なお、給与の差し押さえは給与の2分の1までしか認められません。
時効が中断された場合、それまで進行していた期間はいったんリセットされます。このため、権利の承認や裁判上の請求、差し押さえなどを繰り返していれば、半永久的に時効の成立を防ぐことも可能です。
4-4. 催告
時効を中断したくても、調停の申し立てや強制執行など、手続きにはそれなりに時間がかかります。消滅時効が成立してしまうまでに十分な時間がないこともあるでしょう。
その場合は、一時的に時効を中断することができる「催告」をするといいでしょう。催告とは、支払義務者に対して裁判外で養育費の請求意思を示すことです。催告をすると、消滅時効の進行が6ヵ月間中断されます。催告をする場合、相手方に届いた日が催告をした日とみなされます。相手に養育費の支払催告したことが証拠として残るように、内容証明郵便で送付するようにしましょう。
そもそも、消滅時効は支払義務者が時効が完成を主張することで初めて成立します(時効の援用)。つまり、支払義務者が時効の援用をしない限り、養育費の支払い義務が時効となることはないのです。とはいえ、消滅時効が完成してしまう前に何らかのアクションをしておくべきでしょう。
5. 養育費を請求しても支払われないときの対処法
養育費の支払いは義務であるとはいえ、元夫が何かと理由をつけて支払わないケースもあります。このように、養育費が未払いとなった場合はどのように対応すれば良いのか、不安になる人も多いのではないでしょうか。
養育費の支払いを放置されたときの対応は、公正証書や調停調書などの取り決め書類がある場合と、口約束しかしていない場合の2パターンに分けられます。
5-1. 公正証書や調停調書などを作成した場合
作成した公正証書に「支払いがない場合は強制執行を行う」という旨の強制執行認諾文言がある場合は、約束した金銭の支払いがない際に裁判をしなくても即座に強制執行ができます。差し押さえられる財産は個々のケースで異なりますが、給与や預貯金などが一般的です。
ただし、公正証書内に強制執行認諾文言がない場合は強制執行ができません。そのため、後述の「5-2. 口頭の約束や公正証書がない場合」の手順を踏む必要があります。「養育費が支払われなかったらどうしよう」といった不安を軽減できるので、あらかじめ強制執行認諾文言を含んだ公正証書を作成しておくことをおすすめします。
なお、調停調書や審判書、和解調書、判決書を作成していた場合も、養育費が未払いになったら強制執行が可能です。これらは、強制執行をするために必要となる「債務名義」として認められています。このため、公正証書のように強制執行に対する認諾文言が明記されていなくても、債務名義であれば直ちに強制執行をかけることができます。
5-2. 口頭の約束や公正証書がない場合
養育費の取り決めを口約束で済ませていた場合、元夫から「そんな約束はしていない」と養育費支払いを拒否される可能性があります。
こうなると、「言った」「言わない」の水掛け論になり、いつまでたっても養育費を受け取れません。このため、できるだけ早く養育費について話し合い、合意内容を公正証書として残しておきましょう。
単なる離婚協議書や公正証書といった執行力がない取り決め書類しかない場合や、元夫が話し合いを拒否し続ける場合は、家庭裁判所に養育費請求の調停を申し立てます。
調停が成立した場合は調停調書が作成され、不成立の場合は審判によって裁判所が養育費の額などが決まります。調停調書や審判の結果を無視し、元夫が養育費の支払いをストップした場合は、強制執行によって財産の差押えが可能です。
(参考記事)養育費の未払いで困っている!支払ってもらうための適切な対応とは?
6. 養育費の未払いを防ぐための保証サービスって?
養育費は、子どもが健やかに生活するために欠かせないお金です。
支払いがストップすれば、家計に大きな影響を与え、子どもの衣食住に問題が生じる恐れもあります。このようなリスクを避けるためにも、養育費保証サービスを利用すると安心です。
総合保証会社であるイントラストが提供している「サポぴよの養育費保証」は日本初の養育費保証サービスで、養育費の未払いがあった場合には養育費を立替えて支払ってくれます。また、支払義務者に対して電話で支払いの催促を行うだけでなく、状況に応じて自宅へ訪問して催促をしてくれるため、自分で元夫と連絡を取る必要もありません。
時間的にも精神的にもストレスが軽減され、落ち着いて子どもとの生活に集中できるため、非常に頼りになるサービスです。
(まとめ)養育費は子どものための費用。時効に気を付けてしっかり請求しよう!
養育費は、子どもをしっかりと育てて自立させるためにも欠かせない費用です。請求を後回しにしていると、時効を迎えて養育費を受け取れなくなる可能性もあります。
また、養育費の支払いが止まったときは迅速に対応しなければなりません。離婚した後は二度と元夫とかかわりたくないと考える人も多いでしょうが、子どものためにも養育費はきちんと請求しましょう。
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