更新日: 2022.01.24
公開日:2020.12.28
養育費の未払いで困っている!支払ってもらうための適切な対応とは?

養育費を受け取れていないひとり親家庭は少なくありません。養育費は子どものための生活費や教育費であり、親権者は受け取る権利があります。
しかし、適切な取り決めを交わしたにもかかわらず未払いとなった場合には、毅然とした対応をしなければずっと未払いのまま、というのが現状なのです。
この記事では、子どもの将来のために養育費を受け取るための方法や未払い予防法をご紹介します。
~ この記事の監修 ~

青野・平山法律事務所
弁護士 青野 悠
夫婦関係を解消する場合、財産分与・養育費など多くの問題が付随して発生しますので、これらの問題を全体的にみて、より望ましい解決になるよう尽力します。
目次
1. 養育費の支払いの実態は?

母子家庭の養育費の受け取り状況を見てみましょう。
厚生労働省の平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果によると、
「養育費を今でも受け取っている」という人は24.3%、
「養育費を過去に受け取ったことがあるが今は受け取っていない」という人は15.5%、
「養育費を受け取ったことがない」という人は56.0%です。
つまり、これまで一度も養育費を受け取ったことがないという人は半数以上にのぼり、受け取っている人のほうが珍しい状況なのです。
「養育費を過去に受け取ったことがあるが今は受け取ってない」という人の割合も、小さくありません。離婚してからしばらくは養育費が支払われていても、途中から支払われなくなってしまうケースも多々あることがわかります。
2. 養育費には時効がある?

養育費には時効が存在します。未払い分があったとしても、時効が成立してしまった後からでは受け取ることができなくなるかもしれません。
養育費についての取り決めがあった場合となかった場合、裁判所で養育費について決定した場合の3パターンに分けて解説します。
2-1. 養育費について取り決めがあった場合
離婚のときに夫婦間で協議し、毎月いくら払うといった養育費についての取り決めを交わして合意していた場合を見ていきましょう。
民法が改正され、債権の消滅時効は一般的には5年となりましたので、未払いの状態のまま5年が経過すると、消滅時効が成立してしまいます。
2-2. 養育費について取り決めがなかった場合
養育費について取り決めをしなかった場合でも、養育費を請求することができます。なぜなら、養育費について取り決めをしたかどうかにかかわらず、直接子どもの面倒を見ていない親にも子どもを扶養する義務があるからです。
収入が多いか少ないか、正社員であるかどうかなどは関係なく、収入が少ないならば少ないなりに養育費を支払わなければなりません。
とはいっても、養育費についての取り決めがなされなかった場合には、時効の起算となる日がないため、時効については明確な決まりがない状態であるといえるでしょう。
そのため、基本的には養育費の請求をしてから支払いを受けることになるため、離婚時から請求時までの間の養育費を支払わせることは難しいでしょう。
養育費の請求をするのであれば、できるだけ早いに越したことはありません。
2-3. 裁判所で養育費について決定した場合
調停や審判など、裁判所の手続きにおいて養育費について決定した場合、10年間は請求権があります。
これは、民法174条の2に定められており、裁判所を通さずに取り決めをした場合よりも時効までの期間が長くなります。
それでも未払いのまま10年が経過すれば消滅時効が成立してしまいますので、できるだけ早く請求したほうがよいでしょう。
3. 時効を止める場合はどうすればいい?

養育費の時効を止めるには、どうしたらよいのでしょうか。
そもそも時効は、権利を持っているだけで使おうとしないのならば、権利を剥奪されても仕方がないという趣旨の制度です。つまり、自分の権利を主張するようなアクションを起こせば、時効がリセットになるのだと捉えておきましょう。
養育費が時効になってしまうことが心配だと考えている人へ向けて、時効を止める具体的な方法を紹介します。
3-1. 権利の承認
権利の承認とは、養育費を支払う側の人が「相手方には養育費を求める権利がある」、あるいは「自分には支払いの義務がある」と認めることや「自分には支払う意思がある」と示すことです。
権利の承認がなされれば、時効期間はリセットとなります。
養育費を未払いの状態にしているような人に権利の承認をさせるのは、難しいのではないかと感じる人もいるかもしれません。
しかし、養育費の一部を支払うことや支払いについて念書を交わすこと、減額や返済延長の申し入れをすることなども債務承認に含まれます。
全額の支払いが難しいのならば一部を支払ってほしいと要求することや、しばらく支払えないようならば返済延長の申し入れをしてほしいと求めることは可能なのではないでしょうか。
ずっと養育費を未払いにしていた人が自分から急に支払ってくるケースはほとんどありませんので、養育費をもらう権利を持っている人が何らかの働きかけをしなければ、権利を承認させるのは難しいといえるでしょう。
3-2. 裁判上の請求
支払督促・調停・訴訟などの方法で裁判上の請求をして債務名義を取得すると、時効がリセットされ数え直しになります。債務名義とは、裁判所の強制執行が及ぶ範囲や誰から誰に対して支払いを命じるのか、などを記したものです。
支払督促の場合は仮執行宣言の申立てを行ったとき、
調停の場合は調停の申立てを行ったとき、
訴訟の場合は訴訟の提起をしたときにさかのぼって時効が中断されます。
ただし、時効が間近に迫っている場合には、裁判上の請求をしようとしても手続きが間に合わない危険性があるので注意が必要です。
このような場合には、裁判外で請求の意思を相手に伝える「催告」が有効です。催告を行うと、6カ月間は時効の成立を止めることができます。
催告によって時効の成立を止めている間に、裁判上の請求を行って債務名義を取得すれば時効がリセットされます。
3-3.仮差押
仮差押とは、訴訟や調停をする前に相手の財産を仮に差し押さえることです。
訴訟等で負けるかもしれないと感じると、相手は財産を隠したり使ってしまったりする可能性があります。そのような事態を防ぐために、訴訟等に先んじて仮差押をするのです。
勝訴すれば、仮差押をした財産のなかから未払いの養育費を支払わせることができます。また、仮差押にも時効を止める効果があります。
4. 時効成立後は未払い分を請求できない?

民法145条によると、相手が消滅時効を援用することによって初めて請求そのものができなくなるとされています。
援用とは、時効が成立していることを理由に支払いをしないという意思を、相手がこちらに伝えてくることです。
相手が時効に気づいていなかったり知らなかったりすれば、そもそも援用をしてくることはありません。消滅時効の期間が経過していても、養育費を支払ってもらえる可能性が完全になくなるわけではありませんので、請求そのものをあきらめないようにしましょう。
5. 未払い養育費を請求するためには

未払い分の養育費の請求は、どのような手順で行ったらよいのでしょうか。行うべき順番とともに、請求の方法について解説します。
5-1. 口頭で催促する
相手が養育費の支払いをうっかり忘れているだけの可能性もあるため、まずは電話やメールなどを使って催促してみましょう。
特に、未払いになるのが初めてであり、何カ月も続いているわけではない場合には、いきなり法的な手段に出る必要はないといえます。ただの支払い忘れである場合には、連絡を入れればすぐに養育費が振り込まれて丸くおさまるはずです。
しかし、意図的に支払わないようにしている場合には、未払いが続くことになります。口頭で催促してもはぐらかされてしまうようならば、次の方法に移る必要があります。
5-2. 書面で催促する
口頭で催促をしても支払ってもらえなかった場合や、話を聞いてもらえそうにない場合などは、書面で催促をします。普通の手紙では相手に届いたかどうかがこちらにはわからないため、内容証明郵便を使いましょう。
内容証明郵便とは、郵便局が手紙の内容やいつ届いたのかなどを証明してくれるサービスです。受け取るときには相手のサインが必要ですので、「そんな郵便物は受け取っていない」といった言い逃れができなくなります。
手紙の内容が養育費の催促であることも郵便局が証明してくれますから、「催促をされていない」という言い逃れもできません。
万が一受け取りを拒否されたとしても、受け取りを拒否したという事実が証明され、それがこちらにも伝えられる仕組みになっています。
相手が受け取ったとしても受け取らなかったとしても、催促をしたという事実が証明できるため、訴訟などに備える意味でもやっておきましょう。
5-3. 履行勧告・履行命令
家庭裁判所を通して離婚をし、養育費の未払いが起きている場合、家庭裁判所に履行勧告や履行命令をしてもらえます。
履行勧告は支払いの催促ですので、家庭裁判所から養育費を支払うようにうながしてもらうイメージといえるでしょう。
一方、履行命令は支払いの命令です。履行命令に従わなかった場合には、過料という罰金を裁判所に支払うことになります。
過料はあくまでも裁判所の命令に従わなかったことに対する罰金ですので、そのお金が養育費に回されるわけではありません。
しかし、履行勧告や履行命令が裁判所から出されるものであること、従わなければ過料があることなどがプレッシャーとなり、養育費の支払いに応じるようになるケースもあります。
5-4. 支払督促
履行勧告や履行命令は、離婚のときに裁判所を通していなければ行ってもらうことはできません。しかし、支払督促はお金を請求する手続き全般に使えるものであり、離婚時に裁判所を通していなくても行うことが可能です。
所定の書類に記入をすれば、裁判所が相手に支払いを催促する内容の手紙を送ってくれますし、かかる費用は訴訟をするときの半額程度の負担です。
もちろん、催促の手紙だけで相手が支払いに応じてくれるのがベストですが、応じないまま数週間が経過すると法的効力が発生し強制執行ができるようになります。
強制執行とは、裁判所などの執行機関が権利を守るために介入することです。具体的には、相手の給料や銀行口座などを差し押さえて、強制的に支払いをさせることになります。
給料が差し押さえられるようなことがあれば、金銭的なトラブルがあることを会社に知られてしまうため、社会的な信用に大きな傷がつきます。
銀行口座を差し押さえられたとしても、口座取引において不利益をこうむる可能性が高いでしょう。ほとんどの人が強制執行をされることは避けたいと考えるため、実際に執行が行われる手前で解決するケースも多いです。
6. 今後もきちんと支払ってもらうために

養育費の未払いは、一度だけではなく何度も起こる可能性があります。
未払いが今後も起きるかもしれないと予想することができる場合、しっかりと支払ってもらうためにやっておけることはあるのでしょうか。
6-1. 公正証書を作っておく
公正証書とは、公証人が夫婦の取り決めを正式な書類にまとめてくれるものです。公正証書に養育費の支払いが滞った場合は強制執行に服する旨の記載をしておけば、訴訟を起こすことなくすぐに強制執行ができます。
ただし、公正証書の作成には双方の合意が必要です。離婚後では公正証書の作成に応じてもらえないこともあるため、できれば離婚前に作成しておくのが望ましいでしょう。
ところで、公正証書と離婚協議書には違いがあることをご存知ですか?
離婚協議書とは、公正証書と同様に養育費や慰謝料など、離婚するにあたっての決めごとを書面に記したものです。
しかし、離婚協議書には強制執行をする力がありません。口約束ではなく決めごとを書面に残しておくのはとても大切なことですが、あくまでも、話し合いの結果を書面に残したものなのです。
公正証書を作成しておらず離婚協議書だけがある場合、強制執行をするためにはまず訴訟を起こさなくてはならないのです。
(参照記事)離婚協議書の作成方法を解説。記載事項やひな形も紹介
6-2. 調停をする
調停とは、裁判所にて調停委員という専門家が間に入ってサポートをしながら、問題の解決を図ってくれるものです。
離婚のときに調停をする場合もありますが、養育費の未払いが起こったあとでも調停はできます。
離婚した相手と顔を合わせなければならないのではないかと心配する人もいるでしょうが、安心してください。調停委員がそれぞれの人とマンツーマンで話をする形式ですので、一緒の席に呼ばれることはありません。
費用も3,000〜4,000円程度と、訴訟を起こすよりもずっと安く済みます。調停が成立すれば、未払い分の養育費の支払いを強制することができます。
また、成立内容が調停証書に取りまとめられ書面に残るため 、今後また未払いが起こったときの支払いもスムーズになるでしょう。
また、離婚のときに裁判所を通していなかったとしても、調停をするときに裁判所を通せば履行勧告や履行命令ができるようになるというメリットもあります。
6-3. 養育費保証で予防をする
きちんと取り決めをしたとしても未払いが発生する場合もあります。
それに、調停や強制執行などで未払い分を請求する方法は、手間や時間がかかり、弁護士に依頼するにはまとまった費用も必要です。また、確実に回収できるわけではない点にも注意しなければいけません。
ですので、時間やお金に不安がある方は、取り決め後に「養育費保証サービス」を利用して、未払いを予防する方法がおすすめです。
「養育費保証」とは、未払いが発生しても、保証会社が代わりに養育費を支払ってくれるサービスです。保証会社が立て替えた養育費は、そのまま保証会社が相手に請求するので、ご自身で催促の連絡をする必要がありません。
離婚手続きのときや未払いが発生する前に契約しておけば、いざというときにも安心ではないでしょうか。
これから離婚して養育費を受け取る予定の方や、すでに未払いでお悩みの方のどちらでも利用できるプランがあるようですので、まずは相談や資料請求などをしてみて下さい。
(まとめ)未払いが心配な場合は保証サービスがある

養育費は子どものためのお金であり、泣き寝入りする必要はありません。
未払い分の請求方法や段取りなど、しっかりとした知識を身につけ、確実に養育費を支払ってもらいましょう。
また、未払いが発生してしまったときには養育費の立て替えを行い、 催促のストレスから解放してくれる「養育費保証サービス」もあります。
離婚後もお金の問題はデリケートで、そもそも元パートナーに請求や相談がしにくいはずです。養育費の未払いに不安を抱えている場合は、養育費保証サービスを検討してみてはいかがでしょうか。
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